天空人プサン。
その正体は天空から地上を見守るマスタードラゴン。
彼は地上の人間の生活に憧れ、自らも人間となり地上に降りた。
プサンが地上の生活を数十年謳歌しているその間に、パパスとマーサという夫婦の間に子供が生まれた。これから過酷な運命を背負うことをその赤ん坊はまだ知らない。
それからさらに数年!地上に落ちた天空城について調べるため、トロッコ洞窟にやってきたプサンは、なんとトロッコの呪いにかかってしまった!ぐるぐるぐるぐると終わらないトロッコの旅に出てしまったのだ!
あの時の赤ん坊は父パパスと共に母を探す旅をしていたのであった。それがこの物語の主人公である。
主人公が親の目を盗み、ビアンカという名の少女とお化け退治をし、さらには妖精の国の英雄となり、春を取り戻していたその頃、プサンは何をしていたのか。
トロッコでぐるぐる回っていた。
さらわれた王子を助けるため、父と共に遺跡に乗り込んだ主人公。しかしそこに待ち受けていたのは光の教団の幹部を名乗るゲマ、ジャミ、ゴンズだった。主人公を人質に取るという卑劣な手段により父パパスはなぶり殺しにされてしまう。目の前で父を失いながらも、生きる目的を見失わないようにと主人公が決意に燃えていた頃、プサンは何をしていたのか。
ただただ感情もなくトロッコでぐるぐる回っていた。
少年から青年へ。およそ10年の月日に楽しい時間はなくただひたすら奴隷としてこきつかわれる毎日を送っている主人公。絶対に逃げ出すという意志だけは捨てず、闘争心を静かに燃やし続けていた頃、プサンは何をしていたのか。
飽きもせずトロッコでぐるぐる回っていた。
少年時代からの親友ヘンリーと別れ、頼れる仲間は魔物だけとなってしまった主人公。その中で、懐かしき友と再会し、父の形見である剣を手に彼が旅をまだまだ続けていた頃、プサンは何をしていたのか。
やっぱりトロッコでぐるぐる回っていた。
強敵ぞろいの火山、滝の洞窟で指輪を探し求めて戦い続ける主人公。幼馴染ビアンカ、可憐な令嬢フローラ、勝気な美女デボラ。三人の女性の間で気持ちが揺れ動き、人生最大の決断を迫られていたその頃、プサンは何をしていたのか。
我関せずとトロッコでぐるぐる回っていた。
ようやく見つけた自分の故郷。自身の出生の真実を知り王位を継ぎ、さらには最愛の妻との間に子供もできた。これまでの過酷な人生を神は見守ってくれていたかのように、主人公の身に幸せが降りてきた。
しかしそれもつかの間のこと。最愛の妻はさらわれ、助けに行くものの夫婦で石になってしまったその頃、プサンは何をしていたのか。
見守るどころか同じ景色を見るしかできずトロッコでぐるぐる回っていた。
生まれたばかりの我が子の成長を見守ることすらできず、ただひたすら見知らぬ家族の家の庭でたたずむことしかできない主人公。目の前で子供がさらわれても、自分が足蹴にされても、何もすることができず季節の移ろいを見つめているだけの日々を8年も送っていた頃、プサンは何をしていたのか。
季節の変化すらない洞窟の中、トロッコでぐるぐる回っていた。
およそ20年。主人公が戦い、絶望し、こき使われ、成長し、結婚し、また絶望していたその頃、プサンはずっとトロッコでぐるぐるぐるぐる回っていた。
主人公たちが洞窟を訪れるまで、ぐるぐるぐるぐる回っていた。
これがマスタードラゴンだっていうんだから、主人公はもっと怒ってもいいと思う。
(文・やなぎアキ)
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