本日8/2(金)より公開となった映画「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」。
その「映画ドラクエ」を相手方として、「小説ドラゴンクエストⅤ」の著者である久美沙織さんが裁判所に訴状を提出したそうです。
久美さんご本人に許可をいただき、DQフリでもその声明全文を公開いたします。
久美さんの声明は以下の通りです。
※映画ドラクエのネタバレを一部含みますので、ご注意ください。
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「小説ドラゴンクエストⅤ」の著者であるところの私こと久美沙織は、悲しいことながら、本日、長野地方裁判所佐久支部に対し、2019「DRAGON QUEST YOUR STORY」製作委員会さまを相手方とする訴状を提出したことをお知らせします。本人訴訟です。
問題の焦点は、映画「DRAGON QUEST YOUR STORY」で、「小説ドラゴンクエストⅤ」で私が創作した主人公の名前「リュカ」を無断で使用されたことと、リュカに対する呼びかけである「リュケイロム・エル・ケル・グランバニア」が無断で「リュカ・エル・ケル・グランバニア」と改変されて使用されたことです。
ただし、キャラクターの名前は著作物として認められないとの判示に鑑み、訴状では「リュケイロム・エル・ケル・グランバニア」を争点としています。
請求しているのは、ご謝罪と、事後ではあっても契約いただき、「リュカ提供:久美沙織」とクレジットしていただくことです。勝っても負けても、もし、判例集に「リュカ事件」とか「リュケイロム・エル・ケル・グランバニア事件」として収録されとしたらちょっといいな、とも思います。
映画の上映中止やDVD等の製造禁止は請求しておりません。ご安心ください。
ドラゴンクエストが映画になることを知ったのは、2019年2月、テレビの情報番組でのことでした。声優発表の時点で主人公の名が「リュカ」となると知りました。ゲーム「ドラゴンクエストⅤ」では、主人公の名はゲームを遊ぶかたがそれぞれに自由につけるものです。無限の選択肢があります。ドラゴンクエストⅤを映画化するにあたり、主人公の名にリュカを使うとしたら、それは私の小説が存在したゆえで、また、その読者のかたがたが多数おられたからだと思われました。株式会社スクウェア・エニックスさま(なお、現時点では、被告2019「DRAGON QUEST YOUR STORY」製作委員会の一員でいらっしゃるのか正確なところは不明です)からは、特にご連絡はありませんでしたが、私の付けた名前を映画制作スタッフのみなさまが気に入って使って下さるのなら、名誉なことと受け止めておりました。
6月に、株式会社スクウェア・エニックスさまのコミックス『ドラゴンクエスト精霊ルビス伝説』の担当者から、別件でご連絡をいただきました。
ちなみに、私が書いた小説版のドラゴンクエストは複数ありますが、現在、担当がどなたであるか、把握しておりません。そのためコミックス担当者に、ふたつのことをおたずねしました。
ひとつは、7月に私が参加する予定になっている集まるイベントで、ドラゴンクエスト映画について話をしたいので、宣材の提供をお願いできないかということ。
もうひとつは、映画公開にあわせて、「小説ドラゴンクエストⅤ」を、広報していただけないかということ。今回は、原案はゲームで、拙著はそのノベライズ作品という位置づけですが、「リュカ」の名のもとになったのですから、その点は評価していただいても良いのではないかと思いました。
ほどなく回答がありました。
前者は、ドラクエを集客に使うのは商業利用に当たるからNG、後者については「DRAGON
QUEST YOUR STORY」のノベライズを出版予定の出版社が別にあるため、紛らわしくなり、また、その出版社に不快を与えるため不可、とのご連絡でした。
さすがに少し変ではないか、と思うにいたりました。「リュカ」の使用に関して一言のご連絡もなかったことは胸に納めて、あくまでおだやかに「おたずね」するかたちで、やんわり申し上げたつもりでしたが、その気持ちは通じず、むしろ、まるで、こちらが突然、不遜にも過大な要求をしたかのようなお返事をかえされたと感じました。
個人、法人、製作委員会のような任意組合と立場は違えど、クリエーターはクリエーター同士、自らの創作物について自らの権利を主張するのと同時に、また、同様に、相手方の権利や成果や名誉も認めて、手を携え力を合わせてゆくのでなければ、複数のクリエーターが関係する創作が発展することは不可能です。
私個人の権利を主張するためというだけでなく、このような原理原則を株式会社スクウェア・エニックスさまにご確認頂くためにも、あえて苦言を申し上げるべきではないかと考えるにいたったのです。
私自身は「ドラゴンクエストV」は楽しくプレイしましたが、そのリメイク版はプレイしておらず未確認ですが、今回のことをきっかけに多少調べてみますと、「小説ドラゴンクエストV」の設定が「逆輸入されている」との指摘があります。また、「CDシアター ドラゴンクエスト」も私は全部を聴いてはおりませんが、話の筋が各小説版に準拠しているにもかかわらず小説執筆者名がクレジットされていない、という指摘もあります。これらについても、株式会社スクウェア・エニックスさまから小説執筆者としての私には、特段、何のご連絡もありませんし、契約を交わしたことも、成果物見本の提供もありませんでした。
設定やアイディアは必ずしも著作物に相当するとは限りません。ですから、「逆輸入」や「『CDシアター ドラゴンクエスト』における使用」がただちに著作権法違反である、と申し上げるつもりはございません。他方、著作物でない成果物の無断使用が一般不法行為にあたるとの判示もあります。
ただ、ひとつ言えるのは、(残念な表現ですが)いわゆる「盗用」「剽窃」「パクリ」は、著作権法違反より広い範囲に対して用いられるべきものであろう、ということです。著作権法違反にならない、著作物ではないから支払いはしたくないと考える場合でも、使う際にはその旨を含めて連絡するというのは、クリエーターとして最低源の礼節でありましょう。ましてや同じ「ドラクエV」を原案とする作品同士なのです。
また、機密保持条項により業務上必要な範囲に留めますが、出版契約書の二次的使用に関する条に照らして適切でないおそれが大きい、と述べることも可能かと思います。二次的使用に関して私は株式会社スクウェア・エニックスさまに交渉を委任することになっており、株式会社スクウェア・エニックスさまご自身が二次的使用なさる場合は、自発的にご連絡くださるはずのものです。著作物であるかないか確認してから使用するのではなく、株式会社スクウェア・エニックスさまが著作物ではないと一方的に判断したら使い放題、というのでは、著作物か否かの判断が難しい一部分等が二次的使用されているかいないかを、クリエーター側が株式会社スクウェア・エニックスさまの販売物全てを点検して調べなければならなくなります。現実的には不可能です。一緒に創作する同志なのになんとも寂しいことですし、優越的地位の濫用の疑いもあるかもしれません。
実は法人さまにも似た事情があります。
たとえばドラクエの魔法の技の体系と名称は素晴らしく工夫されたものです。ひらがなの「やくそう」もまた、うまい表現です。が、「イオナズン」「ベホイミ」「やくそう」といった文字列は短すぎて著作物とは認められない可能性が極めて大きいものです。そして株式会社スクウェア・エニックスさまによっては商標登録もされていませんし、「やくそう」は一般語であって商標登録は不可能でしょう。
誰かに、勝手に、上手に、「つまみ食い」的に使われた場合、著作権法によって対抗するのは困難です。著作権法に抵触せず「ロトの記」「リュカ伝」を書くことは可能なのです。一般不法行為による対抗は不可能ではありませんが、これも必ずしもうまく働くとは限りません。
ですが、まったく違う分野であればともかく、ファンタジーRPGでの魔法で「イオナズン」、回復薬で「やくそう」とあれば、株式会社スクウェア・エニックスさまはご不快でしょうし、社会的にも非難は免れ得ません。ですからクリエーターはみな、それぞれ独自の表現を工夫します。
今回の「リュカ」の使用も同じ「つまみ食い」ということになります。
やられて困ることを他者に行うのはクリエーター同士として悲しいことです。そうではなく、お互いに尊重しあい、さらには「現実的なコストで可能な」「つまみ食い」への対抗策をみなで考える、というほうがずっと建設的であろうかと思います。
ですが、一個人と会社とでは力関係から、なかなか対等の交渉とは参りません。対立したら、私が書いたドラクエ小説等の共同著作物の他社からの出版に株式会社スクウェア・エニックスさまが同意しないであろう、どこからも出版できない「塩漬け」となるだろうとは容易に予想ができます。
そのような不利益への怯懦によって、本来は申し上げるべきことを怠ったのが、仮に、【自らの権利は強く主張するがクリエーター個々人の権利については必ずしもそうではないという株式会社スクウェア・エニックスさまの悪しき(そうでなく、なにかつまらない行き違いが本件の原因であることを現時点でも願っておりますが)企業文化】形成の一助となってしまったのであれば、私自身が、臆病と怠慢と、それらを「版元さん相手だから仕方ない」と自らに対して誤魔化してきたために、あるいは、「ドラクエ愛」ゆえに、申し上げるべきを怠ってきたことは、私自身の損得を離れ、実は株式会社スクウェア・エニックスさまをも含めた他のクリエーターさまがたの権利の侵害にも間接的に加担をしまったことになり、強く反省すべきと考えております。ドラクエを愛していればこそ、申し上げるべきことは、怖くても、苦くても、申し上げるべきであったのです。いじめに巻き込まれた時と同じです。黙認は中立ではなく加担だと、もっと早く、自覚すべきでした。
他方、「小説ドラゴンクエストV」発刊から長い月日が経ち、当時、株式会社エニックスさまでわたくしを担当してくださったかた、社員として出版に関わった方々が、いまはもう株式会社スクウェア・エニックスさまにほとんど在籍しておられないようで、関係性が希薄になっていることも考えられました。
また、もしそうであれば名誉なことでもありますが、「ドラクエ5の主人公といえば『リュカ』」というお考えが社内で当たり前となっていて、その起源が拙作「小説ドラゴンクエストV」にあることを知らないかたが多いのかもしれないという事態も考えられました。
そのため、なるべく穏やかに、事実と契約と出版業界の慣例などなどを踏まえ、再考をお願いしました。
すると全体監修の市村龍太郎氏からお電話を頂戴しました。私は争いごとや争いごとになりそうな交渉が不得手なので夫に応対してもらいましたが、市村氏は「リュカ」と「リュカ・エル・ケル・グランバニア」を使うに至った経緯やそのことについての事前の連絡の欠落について率直にご説明くださり、夫も、私の意を受けて、事後とはいえご連絡頂いたからには感情的な結ぼれはないこと、および、「リュカ」の名を映画で使って頂いた感謝を伝えたと存じます。また、市村氏は、イベントでドラゴンクエストについてお話しすることが商業利用でNGとの当初のご判断についても撤回くださり、必要な宣材を提供してくださることもご快諾いただき、実際にすばやくお手配くださいました。また、市村氏は私を試写にご招待くださりもし、たいへん楽しみながら映画「DRAGON QUEST YOUR STORY」を拝見する機会にも恵まれました。
そのように良いご関係を築けたと思ったのですが、使用許諾契約については何のご連絡もありません。いかに市村さまからご説明いただいてといってもそれは内々のこと。たとえば公式サイトやパンフレット、エンドロールに私の名前はありません。「リュカ」だから「小説ドラゴンクエストⅤ」が下敷きになるのではないかといった期待を述べてくださるかたがたもおられのですから、私の関与の程度を示すために、事後であれ、たとえば、「リュカ提供:久美沙織」のクレジットを追加していただく、といった措置は、ドラクエファンのみなさまへの責務であると考えました。契約書なしにクレジットともいきません。契約をしてください、どんな契約かご提案をください、と、市村さまに申し上げました。
すると、2019「DRAGON QUEST YOUR STORY」製作委員会さまの一員である東宝株式会社さまが窓口となる旨、市村さまからお知らせくださり、その後、東宝株式会社さまからご連絡を頂きました。
ところが、東宝株式会社さまからのご連絡は当初、株式会社スクウェア・エニックスさまから一方的に説明を受けただけでよく事情がわからないので「最初から」話がしたいというものでした。
失礼ながら、2019「DRAGON QUEST YOUR STORY」製作委員会さま内部での連絡の不備については、委員会さま内部で解決していただくべきものです。また、全体監修というお立場にある市村龍太郎氏からすでになされたご説明を踏まえて、ではなく、それをまるでなかったものとするかのような、最初からやり直ししたいというご対応には応じかねるところです。
その旨お伝えしますと、次には、それが何であるかは示されずに、「根本的な認識の相違」があるから(市村さまと私との間にはそのような相違はないのですが)2019「DRAGON QUEST YOUR STORY」製作委員会さまからは提案はできない、久美の側から提案すれば検討してもよい、とのご連絡でした。
心重いこともおありになられたでしょうに、勇敢に率直にお話し下さった市村さまの営為をも無に帰すお振る舞いです。私としても、市村さまの勇敢さ率直さには同じドラクエ好きとして感じ入るところがあり、最初のボタンの掛け違えは十分に補えると思っておりましたが、まったく残念なことです。
さらに、株式会社スクウェア・エニックスさま代理人弁護士さまからのご連絡がありました。「リュカ」は著作物ではないから、許諾不要、連絡不要、よって著作物の二次使用ではないから交渉委任も不要、とのことでした。「リュケイロム・エル・ケル・グランバニア」と、著作物ではない成果物の無断使用が一般不法行為にあたる可能性には触れられず(誠意条項って何でしたっけ?)、逆に、「リュカ」は著作物でないから提訴自体が不法行為に当たる可能性をお教えくださるものでした。
本件訴訟の請求事項は名誉回復のみであり、金銭賠償の請求はしておりません。
また、映画の上映差し止めも請求しておりません。楽しい映画ですから、多くのかたにご覧頂きたいと、心底、思っております。本当は本件訴訟のような水を差すこともしたくはなかったのです。
ですが、同時に、創作者として最低限の筋を通すためには、「リュカ」および「リュケイロム・エル・ケル・グランバニア」の創作については、これらが著作物に該当するか否かに関係なく、その名誉も責任もともに、私、久美沙織に帰すること、その氏名表示の欠落の責が2019「DRAGON QUEST YOUR STORY」製作委員会さまにあることを示さないわけにはいかない、とも考え、このような請求内容としました。
この業界の大手法人において管理的なお立場にあるかたがたが、共同して制作に関わる個人あるいは零細のクリエーターの権利と成果と名誉を、ご自身の法人のそれらと同時に、同様に、守ろうとする意識を持ってくだされば、このような多人数が関わるゲームや映画の実りはより充実したものとなりましょう。
もしも、2019「DRAGON QUEST YOUR STORY」製作委員会さまが、しかるべき権限を市村龍太郎氏にお預けくださっていれば、提訴に至らず合意に達することができた可能性が高く、映画「DRAGON QUEST YOUR STORY」の公開に際して水を差すような事態も避けられたのではないとかと思っています。私としては、「リュカ」および「リュカ・エル・ケル・グランバニア」の使用に関する契約について第一案をお示しください、としか、お願いしていないのです。映画「DRAGON QUEST YOUR STORY」のノベライズと混同されないように配慮しつつ、「小説ドラゴンクエストV」を映画「DRAGON QUEST YOUR STORY」の原案のゲーム「ドラゴンクエストV」のノベライズであって「リュカ」の起源である、といったような広報を行っていただくことが当初の希望のひとつであり、同時に、もしお役に立つようであれば、映画「DRAGON QUEST YOUR STORY」のノベライズ版について私が感想を述べ、広報に使って頂くのはどうですか、といった旨も株式会社スクウェア・エニックスさまにはお伝えしてあるのです。
請求事項としては、法律が名誉回復しか認めておらず、一定の類型が判例として積み重ねられているためにご謝罪とその受容で始めざるを得ませんが、そこで終わらずに【ドラクエ愛で止揚される】座談会を同時に請求しているのも、主張し合うとしてもフェアに行い、整理がついたら対立を引きずらず、協調によってよい良い創作を目指すほうが望ましいとの考えによります。
次に、「リュケイロム・エル・ケル・グランバニア」を「リュカ・エル・ケル・グランバニア」と改変されたことに関する同一性保持権侵害に関する請求権の放棄について説明申し上げます。
もし、事前に、映画スタッフのかたから、たとえば「時間に従って耳から聞くしかない映画では、リュケイロムの略称がリュカであるという理解を瞬間的に期待することが難しいので、ぜんぶリュカで統一したい」旨のご相談があったとすれば同意したと考えますし、また、改変の理由が異なろうとも――公式な場の呼びかけか、ラスボスと向き合った際の重々しい名乗りか、愛し愛される相手からの甘やかな呼びかけか等、使われる状況にも応じて――映画スタッフのかたがたの感性と判断を信頼申しあげたいと考えるからです。
「リュケイロム・エル・ケル・グランバニア」に戻す再収録や、既に製作された映画を破棄し、「リュカ」と「リュケイロム・エル・ケル・グランバニア」を使わずに作り直せ、との請求も必要ないと考えました。これらのコスト負担は最終的にはファンのみなさまにお願いすることになりますし、膨大なゴミが生じて環境にも良くありません。結果的にふたつのバージョンが成ってしまって混乱をもたらすことも本意ではありません。
ファンのみなさまにおかけするご迷惑ができるだけ少ない方法で、事後承諾でいいので、契約し、クレジットしていただければ十分です。
なお、必要不可欠であるため、訴状には映画「DRAGON QUEST YOUR STORY」のネタバレが含まれます。公開が終わった後で著作権裁判の一例として報道、言及くださるのはむろん差し支え在りませんが、当面はできるだけネタバレは避けて頂けるようお願い申し上げます。これは私のためではなく、お子さまがたも含む、映画を楽しみにしておられるドラクエファンのみなさまのために、ということです。
映画「DRAGON QUEST YOUR STORY」を多くのみなさまが楽しまれることを祈念して結びといたします。水を差してごめんなさい。なんだかんだあっても、やっぱりドラクエが好きですし、ドラクエはいいものですね。
久美沙織 拝
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映画公開日にこのような声明があったことはファンとしても複雑な思いはありますが、関係者各位の思いと思いがうまくまとまるように見守るほかありません。
まずは作品の興行的な成功を応援していきましょう!
(文・DQフリ編集部)
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