「はい」か「いいえ」で選ばされるドラクエの選択肢。
初代ドラクエこそゲームオーバーになるかどうかという究極の選択がありましたが、基本的に「はい/いいえ」はあまり物語に関与してきません。
たま~に取り返しのつかない要素があったりしますが、それはかなりめずらしい部類。大体は「どうせ無限ループだろ~?」と軽んじられたりします。
それでも、直感的に「これは真剣に応えねばなるまい」と思った選択があり、そしてその予感通り、その選択が未来を決定づけたものがありました。
それがドラクエ11のロミアとキナイのイベントです。
人魚のロミアがある嵐の日に出会った人間の男キナイと愛し合い、結婚の約束をします。キナイはそのことを村の皆に説明するため、一度村へ帰ります。しかしロミアが待てど暮らせどキナイは姿を現さず……。
ロミアは自身の元を訪れた勇者一行に、キナイは一体どうしてしまったのかを見てきて来るよう頼みます。
そして勇者たちは知ります。ロミアが愛したキナイは既に死んでしまっていることを。ロミアとキナイの約束は、50年も昔のことであることを。
様々な作品で人魚は長寿であるように描かれており、人魚と人間は同じ時に生きられないことはままあります。ロミアとキナイもそうでした。500年の時を生きる人魚であるロミアにとって、待っている間に50年も経ち、キナイが既に死んでいるなんてことは想像もつかないのです。
ここで勇者は選択を迫られます。
キナイがどうしているか見てきてくれと頼まれた勇者は、ロミアにその答えを示さなければなりません。
ここで、キナイは既に死んでいる、と真実を伝えるか。それとも、キナイは迎えに来てくれるよと、嘘をつくか。
キナイは迎えにきてくれると ロミアに ウソをつきますか?
というテキストメッセージがその重さを突きつけてきます。
あなたの想い人はもう死んでいますと言うのと、あなたの想い人はちゃんと迎えにきてくれるよ!と言うのとでは全然違います。いつもの無限ループだと思って軽率に選んでいい選択肢ではありません。
悩みます。当然悩みます。
仲間はどう思っているのかと聞いてみると、カミュやセーニャは真実を伝える派です。嘘をついてもキナイは喜ばない、大切な人を知りたいと思うのはおかしいか、と。たしかにそうです。もう既に死んでいるのに、まだ生きていると伝えることはキナイにもロミアにも誠実ではないように思えます。真実を受け止めねば、彼女はその人生をただ待つことにささげてしまうのですから。
しかしベロニカとシルビアは、真実を伝えることに反対します。無理に真実を話す必要はない、彼女に真実を話すことは不安だと。またマルティナも、特に何も言ってはくれませんが内心では反対していたようです(イベント後のセリフを考えると)。50年の月日はたとえ人魚であっても短いものではなかったはずです。それなのに実はキナイは死んでいたとなれば……。真実を伝えるべきではないという意見もわかります。
そしてロウはというと、過ぎたことを追い求めてはいけない、と言います。埋められない時の流れの差は、遅かれ早かれ二人を引き離すことになっていただろう、と。どちらにせよ、彼女にとっていい結果にはならないということでしょう。そう、それは決断を下す勇者もわかっています。真実を伝えても、嘘をついても、ハッピーエンドには絶対にならないのです。
私はというと、勇者であるがゆえに、嘘をつくことはできませんでした。ロミアに誠実でありたかったのです。いつまでたっても現れないキナイを想って、人間である勇者たちを信用して送り出してくれたロミアにたいして、誠実であるべきだと思いました。
しかしシルビアが「無理に真実を話す必要はない」と言ってくれた時に、「ああ私は本当は嘘をつきたいんだ」とも思いました。真実を伝える勇気が本当は私にはないんだと。カミュの言う「嘘をついたってキナイは喜ばない」についても、それに賛同しながらも、でもこんな辛い真実を受け止められるほど人はみんなカミュみたいに真っすぐではない、と躊躇が生まれました。
それでも私は勇者だから、ただそれだけの理由で勇気を振り絞って彼女に真実を伝えました。勇者は嘘なんてつかないから。
その後の結末は、皆さんご存知の通りです。
真実を知ったロミアは、陸に上がりキナイの墓にキスをすると、そのまま海に戻り泡となって消えていきました。キナイのいない世界を、残りの数百年を生きるのは彼女にとっては無理だったのです。
真実を伝えたことで、彼女は死んでしまったのです。
ロウの言う通り、もし二人が結ばれても遅かれ早かれ時が彼女たちを引き裂いたでしょう。カミュの言う通り、ロミアは覚悟をしていたのだから真実を伝えたことを悔いる必要はないかもしれません。それでも、嘘をついていれば少なくとも彼女はまだ生きていられたという思いがぬぐえません。それが本当に彼女にとって幸せな結末なのかは疑問でも。真実を伝えることが誠意だと思い込んでしまった浅はかさを悔いました。
勇者は嘘をついたりなんかしない、という私の勝手な思いがロミアを死なせてしまったのです。ロミアのことなんて本当は考えておらず、ただ自分のためだけに真実を伝えたのだと、今では思います。
ドラクエ11は勇者としての試練がいくつもありましたが、ロミアとの出会いは私にとってあまりにも辛い試練でした。そして、より成長できたものでもあると思います。
またドラクエ11をプレイしたら私はロミアに真実を伝えるでしょう。あれほど美しく悲しいイベントを、どうしても見たくなってしまうだろうから。
それでもあのとき、はじめてロミアに真実を伝えたとき、あれは私の身勝手な決断だったんだなという思いは忘れないでいたいです。
最後に、ロミアが泡になった後のロウとの仲間会話でのセリフを載せておきます。
たとえ 悲しみを目のあたりにしても
前へ 前へと 進み続ける。
それが 勇者の使命なのだと わしは思うぞ。
(文・やなぎアキ)
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