ドラクエ11は原点回帰をし、勇者の物語に重点を置いた。
主人公は勇者として生まれ、勇者として旅立ち、勇者ゆえに戦い、勇者ゆえに仲間との絆が生まれた。
主人公は齢16歳。あの世界では成人かもしれないが、こちらの世界ではまだまだ若く、まだまだ未熟である。
それゆえに迷い、時には立ち止まりたくなることもあるだろう。
そこを支えたのはいつも仲間たちだった。
時に仲間たちは、勇者よりも力強い勇気で一人立ち向かうこともあった。その姿がまた、勇者を勇気づけた。
※ドラクエ11Sの追加ストーリのネタバレを含みます
長い長い旅路の果てに、彼らは命の大樹の、世界の崩壊を見る。
皆離れ離れになり、ここに至るまで仲間たちと困難を乗り越えてきた勇者もまた、一人になってしまう。
深い深い絶望の中、それでも勇者として諦めてはいけないと女王セレンに言われ、だけれども暗い気持ちを払拭できない。孤独はそれほどまでに恐ろしい。
それはきっと仲間たちも同じだったはずなのに、彼らは一人でも戦い続けた。勇者がいなくても前を向き続けた。
シルビアは、海岸に流れ着いたのちアリスちゃんと合流する。しかし他の仲間たちの安否はわからない。さすがに不安に思うシルビアだったが、そこにアリスちゃんの一喝。
勇者たちはきっと生きている。生きているからこそ、できることをしなければならない。シルビアにはシルビアの使命がある。闇に覆われてしまった世界に、少しずつでもいいから笑顔を取り戻させること。命の大樹が失われ、全ての人が後ろ向きになっていたとしても、シルビアは真っ向から勝負する。真っすぐ見据えて、人々にとって大切なものを思い出させてくれる。少しずつ少しずつ同志を増やし、少しずつ少しずつ笑顔を増やしていくシルビア。
一緒にいない間、彼女がどれほど努力したか。それを目の当たりにして、いつまでも後ろ向きでいられるだろうか。闇に覆われた世界にいても、楽しい気持ちは持てるのだ。
マルティナはたった一人、旅を続けた。彼女はその力強い足取りで、グロッタの町に入る。今はもうひどいありさまだという町へ。
それはなぜか。この闇に覆われた世界で苦しんでいる人たち、その人たちを助けることこそが自分の使命だからだ。
そしてそれは、仲間たちも同じはず。仲間たちも同じようにしているはずだという確固たる意志を持っている。だから彼女は一人でも人々を助ける旅をする決意をした。そうしていれば仲間たちといつか会えるはずだから。
彼女を突き動かすのは、希望の光。勇者や仲間たちが苦しむ人々を助けていたように、自身もそうすべきと、その決意が彼女の心に希望の光をともした。だから彼女は戦い続ける。彼女に勇気を与えたのは勇者であり、その彼女の姿を見てまた勇者も勇気づけられるのだ。希望の光を、絶やしてはいけないと。
カミュが目覚めるとそこは牢屋だった。魔物に囚われてしまったカミュ。仲間たちはきっとどこかで生きていると信じ、そこで出会ったホイミスライム・ホミリンと共に脱出を図る。その中で、勇者と出会ったときのことを思い出す。大切な相棒のことを。ホミリンに妹のことまで言われ、自分にはまだまだ成し遂げねばならないことを知る。
魔物が多く闊歩するアジトでもカミュは躊躇せず進む。ここから出て勇者と、仲間と合流する、その信念が彼を突き動かす。
魔王の六軍王が一人ガリンガと大量の魔物を前にして、一人きりのカミュは窮地に陥る。そこにホミリンの、いや預言者の声が響く。一番大切なものと引き換えに、このピンチを突破する力を与えよう、と。カミュは仲間たちとの旅路を思い出す。何よりも大切なものは、仲間との思い出、絆。それを失うことになる。
だがカミュは躊躇しない。思い出はまた作ればいい、それよりも今はここを突破し、必ずみんなとまた出会うこと。立ち止まるわけにはいかないという確固たる決意により、カミュは逃げ出すことに成功した。これまでの全てを忘れてしまう代わりに。
全てを失っても、生きていれば道は開ける。失うことは絶望ではない。立ち止まることが絶望なのだ。
全てを失っても、立ち止まらず進む勇気があれば、突破口は開ける。
ロウは目覚めると不可思議な空間にいた。まるでこの世のものとも思えぬ場所。そしてさらに彼は驚きの光景を目にする。かつてのユグノア城。まだ魔物に襲われる前に、平和なユグノア城。
そしてロウはかつての記憶をめぐる、幸せだったころの記憶を。最愛の娘エレノアの結婚。そして孫の誕生。しかし。孫を抱きあげたときのそのぬくもりは確かにこの手に残っているというのに、そのすべては幻。そしてロウは、記憶にはない幻を見る。ユグノアは平和なまま、孫である勇者は成長し、エレノアもアーウィンも仲睦まじく、ロウの誕生日を祝っている。あったかもしれない未来。幸せな光景。幸せで、離れがたい光景。
だがロウは行かなければいけない。今必要なのは甘い夢ではなく、強さだから。この幸せを振り切って、厳しい現実に帰っていく。勇者と仲間たちの無事を祈り、来るべき時に備えて強くなるべく、ロウは冥府にて修行を続ける。自身が望む幸せよりも、辛い今を乗り越えた先に、確かな未来があるのだから。
全てを失ってなお旅を続け、やっと再開した孫とも別れ別れになったロウ。それでも彼は隠居などせず、戦い続ける。だから勇者も、現実から逃げずに戦い続ける。彼は偉大なる祖父の血を継いでいるのだから。
これらの物語を、勇者本人は見ていない。だが勇者の分身である私は見ている。だからこそ、彼らに勇気づけられた私の心は勇者に受け継がれる。
より強い心で、目の前の障害を一つずつ超えていく。そして魔王をきっと倒す。
たとえこの先に待ち構えているものが、どのような試練だったとしても、仲間がいれば超えられる。くじけそうになったときは、また仲間が道しるべになってくれるはずだ。
それは最後の砦で戦い続けていたグレイグかもしれないし、小さな体で全てを守ろうとしたベロニカかもしれないし、まっすぐな眼差しでこちらを見つめるセーニャかもしれない。
(文・やなぎアキ)
関連記事