ドラクエ9の主人公は人間ではない。
天使である。
天使界から人間界に落ちてしまった天使である。
羽と天使の輪を失った彼は、見た目は完全に人間である。が、それでも天使なので他の人にはない能力がある。死んだ人が見えるのだ。他にも妖精(サンディなど)や天の箱舟など人間に見えないものが見える。
そして当然、戦闘面でも他の人間には使えない特殊な能力が……
ない。
全然ない。
一応「おうえん」という特技を使えるが、別に天使だからという理由ではない。他にはルーラも主人公しか使えず。こちらは世界樹から授かるためちょっと天使っぽい感じもするが、これまでドラクエをやってきた身としては主人公がルーラを使えるのは当然であり天使だからという特別感は特にない。大体戦闘中は使えないし。
そのため、天使だから特別にこれができる!こういうところが強い!というものが特にはない。ステータス的にもルイーダの酒場で仲間にできるキャラと全く同じなのである。
いいのか!いいのかそれで!
仮にも主人公なのに、他と変わらぬ性能でいいのか!
天使という、歴代の主人公の中でも一線を画した存在だというのに、こんなにも無個性でいいのか!
と、正直思う。キャラクターへの愛着というのは、こういったステータス面能力面にも関わってくる。それがない。なんだか寂しい。
どうしてそのような設定にしたのだろう。せっかく天使なのに。シナリオ面でしか活かせていない。システム面ではあまり関わってこない。ちょっともったいなくない?
が、もしかしたらそれがいいのかもしれない、と思う。
やはり重要なのはシナリオ面。彼は天使であり、でも天使だからといって特別な存在ではない、というところがすごく重要だったのだろう。
天使界においては何の変哲もない天使。それが何の因果か世界の命運を任されるようになってしまった、というのがドラクエ9のストーリーだ。これまでのドラクエとは違い、彼は生まれながらの勇者や王族というわけではない。正真正銘ただの人間ならぬただの天使なのである。
そうなってくると、システム面でそういった要素を入れるのは難しいのかもしれない。天使なのだから人間の仲間との差別化も欲しいところだが、地に落ちた天使には特別な力はもうない、ということを表すにはみんなと同じ能力である方が説得力がある。せっかく天使だったのに、他の仲間となんら変わらないじゃん!という感情はむしろ抱いて正解なのかも。
しかも終盤で彼は天使から人間になる。正真正銘ただの人間になる。だからこそ特殊な能力は持っていないのかもしれない。
それにシステム的にもこの方がよかったのかもしれない。
天使特有の戦闘時の能力があったとして、それが終盤人間になっても使えるとなっては意味がないだろう。
元々使えた能力が、終盤人間になることによって使えなくなる。となると、その能力をよく使っていたプレイヤーはそれをストレスに感じること間違いなし。「前は使えたのに何で使えなくするんだよ!」とイライラするだろう。一度与えた能力は不用意にプレイヤーから奪ってはいけないのだ。それをするならより便利な能力を授けなければいけないだろうが、あくまでも彼はただの人間になるだけなので特殊能力を授ける理由づけもない。
特にドラクエ9は人間になってから、要はクリア後の冒険にも重きを置いているため、そこに不便さがあってはいけない。
そのため、天使特有の能力があってはいけないのだろう。
もちろん、エンディング後に女神の果実を食べて見えないものが見えるようになる能力を取り戻すことが出来るので、そこで天使用の戦闘能力を取り戻すことも可能だ。
が、そこまで色々取り戻したら主人公が人間になった葛藤がより薄くなってしまう。
恐らく制作陣も、「主人公なのに他の仲間と同じ能力で本当にいいのか」と考えたはず。しかしそうしなかったのには理由がきっとある。
私は上記のように考えたが、実際のところはどうだったのかぜひ知りたいものである。
だがやはり天使特有の能力が欲しいという気持ちも捨てきれない。
もしもリメイクする際にはこのあたりをどうにかしてほしいと思う。
というか、早くリメイクしてほしい。
結局それに尽きる。
(文・やなぎアキ)
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