いや、いやいやいや。
おれっちはこんな仕打ちを受けるために、母ちゃんに啖呵切って田舎を出てきたわけじゃねんだよ。
いや悪いとは思うよ?せっかくみんながわざわざセントシュタインまで来てくれてさ、じゃあ同級生久しぶりに集まったし飲もうかってときに愚痴をこうやってこぼすのは。
でも言わせてくれよぅ、だってあんまりじゃないか。
「元天使」だぞ?「元天使」。
都会にこうやって出てきてよ、でもおれっちって学がないだろ?どうやって稼いでいけばいいかなぁと思っていたら、町の人が言うわけだよ。「ルイーダの酒場に登録しておけば、お前の腕っぷしに頼りたい旅人が雇ってくれるぞ」って。確かに腕っぷしには自信があったからよ、こりゃいいやと思って登録したんだよ。
そしたらまさかの「元天使」だよ。いや驚愕したね、おれっちは。断れるものなら断りたかったよ。でもルイーダさんが怖い目でこっち見てくるんだよ。派遣ってのは辛いね。
で、もしかしたらおれっちの聞き間違いかもしれないなと思ったわけよ。そしたらそいつ言うわけだよ。
「僕は元々は天使だったんだけど、わけあって今はもう人間なんだ。だから同じ人間同士仲良くしよう」って。
で、電波だ~~~。都会には色々な人がいるなぁと思ったよ。なんでそいつがそんな妄想にとりつかれてるかは知らねぇけどよ、まぁ雇い主だし、逆らったらますますやばそうだし、大人しくついていくことにしたんだよ。
そんでその自称「元天使」にはおれっち以外にもう二人仲間がいたんだよ。あれ?パーティーは4人まで組めるはずだけど、3人で今まで旅をしていたんだなぁと思ったね。それでコミュニケーションの一環として聞いてみたんだよ、おれっち社交的だろ?そしたら「元天使」が言うんだよ。
「ああ、もう一人いたんだけどね。最後まで一緒に旅をしてきたんだけど、顔に飽きちゃったから、これを機にパーティーから抜けてもらったんだ」
こ、こえ~~~~~。いや、顔に飽きたからって解雇するぅ???あと、「最後まで」ってなんだ?旅の終わりまでってことか?だったらもう旅をやめればいいじゃないか!……おれっちはもうパニックになったね……。
これは残りの二人と仲良くしておいた方がいいとおれっちは踏んだ。残りの二人もおれっちと同じでルイーダの酒場出身だから、話がわかるだろうと思ってな。そんで話しかけようと思ったんだが……。
二人とも表情を崩さずただひたすら「元天使」のあとをついていくんだよ!魔物に会っても淡々と戦うだけなんだよ!一言もしゃべらねんだよ!!
おれっちは、ひたすら恐怖した……。「元天使」は「元天使」で、よくわからない地図とにらめっこしながら、時折地面に落ちているキラキラを拾うだけで。なんのために旅をしているかわからねんだ!!「もう、使命は終わったから」とか言うんだよ!!「みんな、星になって空に還っていったから、もういいんだ」って!いや、電波!!
あとその「元天使」、パーティーにいる仲間とは全然しゃべらないくせに、脳内彼女とはやたら話すんだよ!たしか名前はサンディとか言ってたな。やつの作った設定だと、けっこう気の強い子みたいだな。もうおれっちはかわいそうでよ、なんならおれっちの田舎の女の子紹介してやろうか?って思ったくらいだね。
はぁ、明日は「天の箱舟」とやらに乗るらしいんだ……。
もうやめてぇよ、やめてぇ。
田舎帰って、母ちゃんの作るメシが食いてぇよ。
(文・やなぎアキ)
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