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【キャラクター】ククールに手を差し伸べたマルチェロと、マルチェロに手を差し伸べたククール

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ドラクエにいる兄弟姉妹は癖はあれどもお互い仲がいい。しかし、その中でも並々ならぬ感情をお互いに抱いている兄弟がいる。

ドラクエ8のククールとマルチェロだ。 

 

 

2人は腹違いの兄弟であり、父親はドニの領主だ。この父親がろくでもない男であり女好きのギャンブル好き、とんでもなく強欲な男で人望などはまったくなかった。正妻との間に子供ができなかったためかただの女好きだったためか、自身に仕えていたメイドに手を出しマルチェロを生ませた。そのままマルチェロを跡取りに据え置くが、その後正妻との間に子供ができたために、母子共に追い出したのだ。胸糞イベントが多々あるドラクエの中でも、かなり醜悪である。

こちらはリメイク版では設定が変更され、ドニの領主には平民の恋人がいたが良家の娘との縁談が持ち上がったことでマルチェロを妊娠していた恋人を捨てることになっている。その後正妻との間に子供ができなかったため、マルチェロを養子に迎えようとするが、正妻が妊娠したことにより再び見捨てることになった。どちらにせよ救いようのない父親である。

見捨てられた母は心労から病死し、家族を失ったマルチェロは絶望の中マイエラ修道院に引き取られる。

 

こうしてマルチェロは自らと母を捨てた父親を憎むことになる。さらにはその憎悪の対象はククールにまで向けられる。ククールさえ生まれなければ、母も居場所も失うことはなかったのだ。

 

ククールはドニの領主と正妻との間に生まれた正式な跡取りである。しかし彼が幼い頃両親ともに病死、さらには父親は多額の借金を残していた。領主の息子から一転、かつてのマルチェロ同様なにもかも失ったククールは、兄と同じようにマイエラ修道院に身を寄せる。

 

ろくでもない父親のおかした罪により、奇しくもこの兄弟は同じ修道院で育つことになるのだ。

 

2人が兄弟としての、普通の絆を育むことは決してない。

お互いがお互い、自身ではどうしようもない抗いようもない運命に翻弄され、元凶である父親はいなくなってしまい、なくしたものを必死に埋めようとあがいている。

2人の間には、憎しみが渦巻いている。

 

 しかし、憎しみだけが2人の関係を支配しているわけではない。

 

ほんのひと時だけでも、彼らの間で優しさが流れたときはあったのだ。

 

ククールが両親を失い、マイエラ修道院に行くしかなくなったとき、幼い彼には不安しかなかった。修道院に着いた彼を待っていたのは、冷たい女神像と自分に無関心な大人だった。

そんな不安を募らせるククールの前に、マルチェロは現われたのだ。

家族も居場所もなくしてしまったククールに、マルチェロはかつての自分を重ね優しく手を差し伸べる。これからは、ここにいるみんなが新しい君の家族だ、と。

 

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それは天涯孤独になってしまったククールにとって、何よりも救いの手だっただろう。一人きりではないと、そう思わせてくれたのは優しいマルチェロの温かい手だったのだ。

 

マルチェロに異母弟だと知られると、手のひらを返したように冷たい態度をとられてしまい、以降マルチェロがククールに優しく接することは一切なくなってしまうが……ククールはそのときの優しいマルチェロを忘れたことはただの一度もなかった。

憎しみをぶつけられ、存在を疎まれ、次第にククール自身も兄を憎むようになってしまう。それでも、かつての優しさを思うと、兄を憎みきることは彼にはできなかった。

修道院の暮らしを窮屈に思い、ドニの町でちんけな遊びに身をゆだね、兄に冷たい扱いを受けようとも、彼はそれで満足していた部分もある。

オディロ院長がドルマゲスに殺されてしまい、マルチェロが院長になったときに体よく追い出されたククールは、少なからずもショックを受けているように見える。

 

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旅に出て、兄弟は少し距離を置くことができた。しかし離れようとしても兄弟の運命がそうはさせない。旅をする中、各地で二人は出会ってしまう。野心を胸に、どんな手を使っても上へ上へ行こうとするマルチェロを、ククールは複雑な眼差しで見つめる。いくら兄へ憎まれ口を叩こうとも、次の瞬間には彼は目を伏せる。

マルチェロがあれだけ上を目指そうとする気持ちを、彼は痛いほどわかるから。ククールのせいではないとはいえ、マルチェロがそうなってしまった原因は自分にもあるから。

 

暴走するマルチェロの野心は、とうとうマルチェロ自身の命をも脅かす。主人公たちは世界の平和のため戦う、しかしククールは兄を救うためにも戦う決意をした。自分が兄を憎む心に決着をつけ、かつて優しくしてくれた兄の面影を胸に、絶対に死なせないために、世界で一番自分を憎んでいるであろう兄を助けるために迷うことなく、今度はククールが手を差し伸べる。かつて自分を救うために手を差し伸べてくれたのは、まぎれもないこの人なのだから。

 

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自分がどれだけ憎まれているかもわかっている。そんな自分に命を救われることを、彼はどれだけ恥じるか、それもわかっている。それでも、死んでほしくないと思ったのだ。家族を失った自分に、また家族を作ってくれたのはこの人なのだから。その後どれだけ冷たくされても、その事実だけは忘れないから。

 

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ドラクエ8はククールとマルチェロ、二人の兄弟の絆の物語でもあった。

 失った時間は取り戻せないが、二人には未来がある。ククールが差し伸べた手を、マルチェロが無駄にはしなかったから。お互いの手が、お互いを救ったのだ。

憎しみ合う二人が、何度も邂逅を重ねたのだから、すぐには解決しなくても、いつかきっとわかりあえるはず。

 

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(文・やなぎアキ)

 

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