離脱する点に目をつぶれば。
離脱している点はあまり擁護できない。
主人公たちと旅立った時点でのキーファは、現実を直視しない夢ばかり見るただの若者だった。王子という立場にしては幼い言動も目立つ。彼は18歳、ドラクエ7の世界で成人がいくつなのかはわからないが、子供という年齢では少なくともない。しかし彼はまったくもって現実を直視しない。
何かをしたいという熱い気持ちに従って冒険に出たと言えば聞こえがいいが、つまるところ現実逃避のようなものである。自分にしかできない何かをしたいだとか、自分にしか見つけられない何かを見つけたいだとか言っても、結局は定められた王になるという道を歩きたくないというわがままでしかないだろう。
自分が周囲に与える影響も良く考えず、自由気ままに遊びまわっているバカ王子である。
しかし彼の成長はすぐさま始まる。
ウッドパルナで初めての冒険にワクワクしつつも、苦しむ人々を目の当たりにし巨悪によって悲劇に見舞われた女性に目の前で死なれ、そこからキーファの価値観は少しずつ変わっていったのだろう。
そして旅をしていくうちに少しずつ明かされる、なぜ世界中でエスタード島しか残らなかったのかという事実。そして、自分と主人公の違いにもうっすらと勘づいていく。主人公には何か使命があるのではないか。自分の使命はなんだ?王になることか?それとも。
彼にはエスタード島の住民を、王という立場を使って守るという使命がある。しかしその守るべきものは生まれたときに半強制的に与えられたものだ。当然彼も城下町の人々やフィッシュベルの人々が外からの攻撃にさらされたら彼らを守るために戦うだろう。しかし、彼が自発的に守りたいと思ったわけではない。そうするのが王族として当然だからだ。
しかし彼は旅の途中で自分から守りたいと思う人物と出会うことになる。ユバール族のライラだ。彼女もまた、生まれに縛られ運命を決められた人物であり、そこから逃げ出して自由に生きることは許されなかった。キーファはそんな彼女の姿と自分を重ね、守りたいと考えた。
それが彼の運命を決定づけたのだろう。自分自身が守りたいと思えるものに出会えたこと、それが彼を急速に成長させる。
このまま人生を歩んでいけば、まず間違いなくエスタード島の王になる。しかし彼はそこから逃げ出したい。
彼の冒険はそうして始まった。
しかし、ユバール族とライラとの出会いにより彼は逃げるという後ろ向きの行動事由から解き放たれる。与えられた使命ではなく、自らが見つけた使命。それを成し遂げたいという前向きな気持ち。
今まで与えられたものを享受し、与えられたものから逃げ出すことしかできなかったキーファが、ようやく自分の力で見つけたもののために生きようとしている。
そんな彼の成長は、やはり称えるべきだと思う。自分がやりたいことを見つけてそれに従える人というのはそんなに多くないだろう。
まぁその後の対処について主人公に全て押し付けていることが本当に許されないことだと思うので、そこはダメなのは変わらないが。
しかしもし自分の口で王様たちに説明してそのうえで納得いただいて離脱していたら、彼の精神的な成長についてもっと多くの人に理解されただろうとは思う。
あと種も返すべきだったと思う。
(文・リモート侍)
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