ドラクエ6にて二つ目に訪れる町、それがバザーの町シエーナ(リメイク版ではマルシェ)。
二つ目に訪れる町の中でもなかなか特徴的であり、派手なイベントこそないが印象に残る町だ。
ドラクエ9のセントシュタインのように大きな城下町というわけでもなく、ドラクエ3のレーベのように質素な村というわけでもない中規模の町。
主人公はここにせいれいのかんむりというアイテムを取りに来ることになる。
そのせいれいのかんむりを取りに行くというお使いの思い出よりも、この町ではバザーの思い出の方が印象深い。
そうシエーナはバザーの町だ。
バザーはドラクエ4の砂漠のバザーやドラクエ8のサザンビークのバザーなど他にもあるが、シエーナのバザーは群を抜いている。
他のバザーはバザー会場に通常と同様の武器屋や道具屋などが設置されている。中には他では手に入らない珍しい商品もあるが、シエーナのそれとはちがう。
シエーナのバザーはまさにバザー。商人たちが持ち寄りの自慢の商品をいかに来た人に売るか、言葉巧みにこちらを誘導してくる。
あまり考えずに買い物をするとうっかり損をしてしまうという、二つ目に訪れる町にしてはけっこう不親切なことをやってくるのだ。
たとえばかわのよろい。
これを、通常230Gのところ200Gぽっきり!と言って買わせようとしてくる。ドラクエを知っているものであればかわのよろいは180Gであることを知っているし、そうでなくてももう少し足を延ばせば普通の防具屋があるので定価を確認することができる。しかしここでうっかり「そうなんだ!安い!」と思って買ってしまったら損でしかない。
同様にかわのたてを115Gで買わせようとしてくる老人もいる。
このような通常よりも高値で買わせようとしてくる商人がいるのだ。たまらん。非常にドラクエっぽさを感じる。
他にも、売り切れてたと思ったらあと一つ残ってたよ~と効果音をつけるとしたらチラッチラッだろうな、という勿体付け方をする商人もいる。そのまま頑なに何を売っているのか言ってはくれないのだ。100Gで買えるというから、つい気になって買ってしまうと正体はおなべのふた……。序盤の貴重な100Gを使っておなべのふたは痛い。
商品名を全然言わずに購買意欲をそそってくるやり方、本当に汚い。
でもこういうのは自己責任である。軽率にものを買ってはいけないという教訓すら得られる。
バザーってのはなんでも高く売りつけようとする怖いところだ!と思い始めるころだが、当然そういうわけでもない。
やくそう6つとせいすい1つのセットを50Gで売ってくれる店が存在する。これは普通に買うより18Gもお得だ。これこれ。これがバザーだよ。やくそうをまとめ買いできる点もいい。せいすいを全く使わないのであればやくそうだけ道具屋で買った方がいいが、それでも1セットはつい買いたくなる。
しかしこの店、二回目のバザーのときに売っているセット商品はなんと定価よりも高いので、騙されてはいけない。リピーターを見越しての値段設定だとしたら狡猾である。これもまたバザーの醍醐味だ。
物を買うだけがシエーナのバザーではない。最初にシエーナを訪れたときに最も大事なのは、自分の村から持ってきた民芸品をいかに高く売ることだ。
民芸品を買い取ってくれる商人は三人。有名なドガとボガの兄弟と、民芸品買取のお姉さんである。この3人はみな買取価格が異なっており、誰に売るべきかを慎重に決めなければいけない。結果として、お姉さんは一律同じ値段、ドガとボガはお互いライバル意識があり、交互に話しかけるたびに価格が上がっていく。何度も話しかけて一番高くなったとき売るのだ。
足を使ってよりよい条件で、これにはなかなか学ばされるものがある。たしかに日常生活でも、より安いものや良いものを求めていろんな店を巡ったりするものだ。今の時代だと通販サイトをひたすら見て回ったり。それをまさかドラクエでもやるとは。
このドガとボガのやりとりはドラクエ11でもパロディネタとして輸入された。あの行ったり来たりをまたできる喜びよ。
そしてこのバザー、憎いことに人知れず終わるのである。
特に大々的に知らされるわけでもなく終わる。バザーは二回行われるが、二回目にいたっては下手したら行われていたことも知らないまま終わる可能性がある。せいれいのかんむりをもらった後はもう行く必要がない町なので問題はないが、この人知れず終わる、また始まるというのも好きだ。
バザーのようなイベントごとは、大々的な割にはいつの間にか終わっていることも多い。あれ、もう終わってたのか……というもの悲しい気持ちにさせてくれるのもまた素敵である。
あとでわかることだが、この町は実は下の世界の「世界一の商業都市を作りたかった」老人の夢である。
その設定も含めて好きな町だ。
(文・やなぎアキ)
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