ドラクエシリーズの中でも随一の暗い雰囲気を誇るドラクエ7。
なんせ最初のウッドパルナから飛ばしてくる。
闇に包まれた村ウッドパルナ。女性と子供をさらわれ、自らの手で村を壊す村人たち。
それを命じたのは、かつてウッドパルナで暮らしていたマチルダという女性。
昔魔物に襲われていた村を、自らを犠牲に救った英雄パルナ、その妹がマチルダ。彼女は兄を見捨てた村人を恨み、その闇を見透かした魔王に付け込まれてしまい魔物と化してしまった。
しかし彼女は心まで魔物になったわけではなく、村の少年パトリックに優しい一面を見せたりもする。突然過去に送られてしまった主人公たちのことも助けてくれる。
戦うことに慣れていない主人公たちにとって、彼女の姿は非常に頼もしく映る。なんせ初めての同行するNPCだ。
しかし、彼女が黒幕であることには変わりない。彼女を倒さなければウッドパルナに平和は訪れない。どうあがいても彼女と戦う羽目になる。
そして主人公たちが攻撃しようがしまいが、はたまた逃げようが、彼女はそのまま息絶えてしまう。最後には穏やかな光に包まれて満足そうに逝くが、それでも主人公たちに、プレイヤーに残した後味は苦い。
ドラクエ7はそういうスタートを切る。
そうか、今回のドラクエはこういう感じか、と突き付けてくる。
それならば、これからもこのような辛く苦しい戦いが待ち受けているのだろう。人々を助けるために意気込んで魔物を倒すようなことではなく、向こうにも事情があるがそれでも剣を振り下ろさなければいけない戦いが……。
だが進む足は止められない。プレイヤーはゲームを進めなければならない。辛い戦いが待ち受けているとしても。
が、
マチルダ戦のような辛い戦いはその後ほとんど出てこない。
ほと~んど出てこない。
たしかに行く先々の人々を取り巻く状況は悲惨なものが多いが、敵側の事情は別にない。マチルダのように元が人間だったというわけでもなく、魔王の部下だったり土着のモンスターだったり。元から魔物なので普通に嫌な奴らだし、そいつらを倒すのに何の抵抗もない。むしろ、こいつを倒せば人々を助けられるぜェ!いっちょやるぜェ!という気持ちしかない。マチルダのときは、これで本当にいいのか?いやこれしかないんだ……と考えさせられたというのに。
一体なんだったんだ。マチルダのあれはなんだったんだ。
たしかに一番最初にあの話、あの戦いを持ってこられたことにより一気にドラクエ7をわからせられた。戦いを知らぬ少年少女たちの初めての試練にしてはインパクト大すぎてかなり出来がいい。彼女をそそのかした巨大な悪がいるのだとわからせ、いつか戦うことになるだろう、絶対に許せないと思わせてくれる。一番最初なもんだからずっと印象に残っているし、プレイし終えたあともずっと語れる。とりあえずウッドパルナを語っとくかみたいになる。
が、別にマチルダみたいな敵は他にはおらんのだ。なんなのだ。
一応人間が魔物になってしまい、それと戦わなければいけない事例ならマーディラスのゼッペル王がいる。
が、彼の場合はマチルダほどの葛藤がない。マチルダは魔物と化しながらも優しさを残し、なんとか話し合いで解決できないのか!?と思わず考えてしまった。
ゼッペルはというと、先々で聞く彼の噂は決していいものではなく、「力に取りつかれた哀れな王か……」という印象でしかない。マチルダの時のようにまともに言葉を交わせることもない。確かに彼の過去は同情すべきところがあり、力を欲してしまうのもわからなくはないとは思うが、だからと言ってこっちで葛藤する動機もそこまで深くない。どちらかというと、力づくでも止めてやらなければ!という気持ちの方が強い。
マナスティスを使った後は完全に理性を失っているため、マチルダのときのように本当に攻撃してもいいのか?なんて思わない。というか強いので、そんなこと考えている暇がない。理性が失っているならもうだめだ!やったるぜー!!しかない。
なので、やっぱりマチルダくらいしか葛藤のあるボスというのはいない。
それでも彼女ただ一人の存在で、ドラクエ7ってこういう話だとプレイ後も思わせてしまう。すごいことである。
そして、彼女みたいな悲しい敵と戦うのが一回で済んでよかったと喜ぶべきなのだろう。あんな戦いはもうしたくない。
でももう一人くらいこういう敵と戦いたかったなぁ……。
(文・やなぎアキ)
関連記事