しかも故郷焼かれるし。
彼が何をしたというのか。
ただ勇者として生まれただけだというのに。
勇者として生まれ、その運命に従い旅に出る主人公はドラクエには何人かいる。
ドラクエ1から4までがそうだ。5以降は明確には勇者じゃなかったり、自分の素性もわからぬまま旅に出る主人公が続いた。そして時を経て、11でまた生まれながらの勇者は戻ってきた。
11の勇者もこれまでの勇者と同じように、年ごろになってから自分の運命に従い旅に出る。
しかし、それはあまりにも唐突だった。
16歳になった勇者は、故郷であるイシの村の慣習に従い成人の儀を執り行うため山を登る。その際にモンスターに襲われ、咄嗟に自身の持つ勇者の力が発動してしまう。
しかし勇者はその力に身に覚えがない。帰ってから母ぺルラにそのことを聞くと、自身は母の本当の子ではないこと、そして勇者であることを明かされる。
自身が勇者であることを知り、デルカダールの城へ赴くよう言われた彼は、次の日には早速イシの村を出立する。
こうして勇者の長く過酷な旅が始まるのだった。
いや、急~~~~!!!
よく考えたらあまりにも急~~~~!!
いやつい数日前まで、のほほんと村で暮らしていたのに急に
「あなたは勇者なの!ということでデルカダール城に行ってきなさい!」
とか言われて、そのまま次の日に出発するのめちゃくちゃだよ。
ショックを受けるエマの反応がごくごく普通だよ。
こっちからしてみれば、発売前から主人公が勇者であることは分かっていたわけだし、山での雷のシーンも「やはり勇者なんだな!」と一足先に納得していたので、村を出ることも当然ではある。なんなら早く冒険をしたいのだから、出立が早いのは助かる。
しかし、生まれて16年、村から出ず平和に暮らしていた勇者本人にしてみればそう簡単に心の整理がつくものではないだろう。
それなのにあっさりと旅に出るなんて……とっても素直。
歴代の勇者はどうだったのかと言うと、
ドラクエ1は開始時点で旅の途中なので始まりがどうだったのかは不明。
2はムーンブルクへの突然の襲撃によって旅に出るので、急と言えば急だが、ロトの子孫として有事の際にはいつでも戦えるように訓練をし心構えも多少はできていたであろうことが推測される。
3は16歳になったら旅に出すということを(恐らく)母が決めたうえで戦いに備えていたわけなので、一番心の準備はできていただろう。
そして、唐突に旅に出ることを余儀なくされた主人公として名高い4の勇者。村を襲撃され全てを失い、そのまま故郷を後にせざるを得なかった悲劇の勇者だ。しかし彼もまた、自分が勇者として生まれたことを自覚しており、いつか来るその時に備えて村で修業をしていた。唐突に始まった旅とはいえ、自身の境遇を知ってはいたのだ。
やはり11の勇者、かわいそうでは?
最も平和な状態での出立だったので特に気にしていなかったが……。16歳で成人とはいえ、母の庇護のもと生きてきた彼のことを考えると不安でいっぱいだったに違いない。
「あなたは勇者なの」というカミングアウトだけでも?!?!?だというのに。デルカダールに行くのはもう少し後でも良かったのではないかと思ってしまう。もうちょっと、「ぼくってゆうしゃなんだなぁ」と気持ちを腹に落とし込んでからでもよかったのではないか。
仮に私が16歳のときに、母からいきなり「あなたは勇者!なので明日から家を出て皇居を目指しなさい!」と言われても全力で拒否をしただろう。意味わかんないし。せめてあと1年は猶予が欲しい。皇居行ってすぐそのまま帰宅させてくれるとも思えないし。なんで皇居に行くのかも意味わかんないし。
こちとら16歳になったばかりのただの人だぞ、と思うので、11の勇者も大して違いはないはず。
ただ、成人の儀が魔物も出現するような山で行われているくらいなので、ある程度の戦闘訓練は積んでいたのだろうと推測される。それだけはよかった。恐らくぺルラが、いずれ来る旅立ちのために村の人に戦い方を教えるよう頼んでいたのだろう。じゃなきゃ、勇者とはいえあの時点ではただの少年を村の外に出すのは正気の沙汰ではない。
あとは、旅に出たとは言ってもその気になればなんだかんだ帰ってきてくれるだろうというのもあったのかもしれない。その後勇者が帰るまでにイシの村はとんでもないことになってしまうのだが……。
とはいえ、エマの反応と出立の日の村人の見送りを考えると、いつでも帰ってこれるというほどの楽観はなかっただろう。なんていったって勇者なのだから。デルカダールに行ってはい終わりなわけはないので、しばらくは帰ってこない覚悟をしていたはずだ。
勇者とはいつでも過酷な運命を背負うものなのだ……。
昨日まで平穏に暮らしていたとしても、今日何が起こるか分からないのが勇者。
ドラクエ12の主人公は、どうなるのだろうか……。
(文・やなぎアキ)
関連記事