超竜軍団を率いる竜騎将バラン。
伝説の竜の騎士バラン。
かつて冥竜王ヴェルザーと戦い、辛くも勝利した彼は実力でいえば間違いなく最強クラスである。
地上最強の戦士であり、地上の平和を保つために戦い続けるという運命の元生まれたバラン。しかし彼は、ダイ大においてもっとも愛に生きた男だと思う。
冥竜王ヴェルザーとの戦いは熾烈を極め、勝利したとはいえバランに深い傷を負わせた。
バランがその傷を回復するためにテランの泉までやってきたとき、運命の出会いを果たす。
彼女の名はソアラ。アルキード王国の王女であり、太陽のような温かさが彼女にはあった。二人はその後恋に落ちたわけだが、アルキード国にはバランを良く思わない者もおり、二人は駆け落ちする形で人里離れた山奥でひっそりと暮らすことになる。
竜の騎士として戦いに明け暮れていたであろうバランにとって、その人生で唯一の安息の時間だっただろう。愛する妻の間に生まれた愛する息子。世界の平和のために生まれた彼だったが、愛を見つけたことで戦うだけではない自分の役割を見つけることができた。愛するものとのこの生活を壊さないための、夫として、父親としての役割が。神によって与えられたものではない、ソアラと息子のために自身が課したものである。
しかし、その幸せは長くは続かない。ソアラを取り返すべくやってきたアルキード国の兵に、バランはあっさり捕まってしまう。竜の騎士の彼であれば、人間の兵士を一掃することなどたやすかったはず。しかし、それはできなかった。バランにとって、人間は守るべき存在であり、殺すわけにはいかなかったのだ。そして何より、相手はソアラの父でもあるのだから。愛するものを守りたいはずのバランであったが、己の使命の前ではそれを全うするわけにはいかなかった。愛で強くなることもあれば、愛で弱くなることもある。そのもどかしさを、竜の騎士として冥竜王を倒すまでした彼は痛感しただろう。
そして、ソアラはバランをかばって命を落とす。
そのときバランは悟った。人間こそが、この世界にいらない存在なのだと。人間を恨まないでほしいというソアラの言葉は、バランの心にはすでに届かなかった。
愛したゆえにその憎悪は強大になり、誰にもバランのことは止められなくなってしまった。彼の中の愛がなくなったわけではない。むしろなくならないからこそ、人間を憎む気持ちを消すことが出来ない。
別れ別れになってしまった息子と再会したときにも、彼は自らの道へ息子を引き込もうとした。息子のことを大事に思っているからこそ、自分の考えが正しいと思っているからこそ、無理やりにでも引き込もうとしてしまう。
彼の行動原理は人間への憎しみだが、それはつまりソアラへの愛の裏付けでもある。そこが絶対に揺るがないからこそ、「生き方は変えられん」というセリフが出てくるのだ。ソアラの今際の際の言葉に従って人間を恨まずにいられるのならとっくにそうしている。何年経ってもソアラの死を忘れられない彼にとって、人間を憎む気持ちもいつまでも忘れられない。純粋で新しい何かに触れる機会なぞないのだから、ずっと変えられないのだ。大人とはそういうものなのだ。
しかし、息子ダイの純粋な心に触れ、そして人間たちの臆病が故のその強さに触れ、少しずつバランの考えは変わってくる。彼の人生に変化が訪れた。
本当に倒すべき相手は誰なのか、守るべきものはなんなのか。そして、自身が本当に大切にしたいものはなんなのか。
彼が大切にしているものは、ずっと変わらない。ソアラへの愛だ。だから、自分とソアラとの間に生まれた息子は、何よりも大切にしなければいけない。赤ん坊のときに別れ別れになったままの息子は、再会してみれば驚くほど強くなり、そしてそのまっすぐな心で守りたい者のために全力で戦っていた。
純粋で、太陽のようにまぶしいダイ。間違いなくダイはソアラの息子である。
ソアラへの愛は変わらない。バラン自身が言っていたように、変わらないのだ。そして変わらないからこそ、バランは息子のことも愛した。人間すべてを許すことなどできない。だが、息子のことは大切だから。大切な息子だから、息子の守りたいものを守ろうと思うのは至極当然のことだったのだろう。
人間そのもののために戦うことはできなくても、息子のために戦うことはできる。
ソアラへの愛のために戦っていたバランは、今度は息子への愛のために戦うことになる。
そして彼は、息子の命、そして息子が守ろうとしている者のために命を落とした。
自身の大切なものを守るためにその身を挺して飛び出したソアラ。
バランもまた、同じことをした。
ソアラの愛により救われ、ソアラへの愛により憎しみにかられ、最後には息子を愛するがゆえに命を落とした。
戦うことが運命である竜の騎士。地上最大の戦士である竜の騎士であったバランだが、たった一人の女性との出会いを経て使命とは別のもっと大事なもののために戦うことが出来たのだ。
武骨な男ではあったが、心に秘めたものは熱い愛だったのだと、そう思ってしまう。
(文・やなぎアキ)
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