ドラクエ1は竜王を倒すことが目的だ。
竜王にさらわれたローラ姫を助けるというのは必須ではない。王女の愛がないとロトのしるしを見つけるのが困難なので、攻略なしでFC版やSFC版を初見でプレイする場合はどうしても助ける必要があるが、フラグ管理的には助けなくても問題はない。
そのため、物語の最初のラダトーム王のセリフでは、竜王を倒して光の玉を取り戻せということしか言われない。
ローラ姫がさらわれてしまったということは一言も言わないのだ。
代わりに近くにいる大臣が、ローラ姫がさらわれたという情報をくれる。そして、王は言わないだけで助けて欲しいと思っているとも教えてくれる。
王様……!
王様あんた……!!
あんた…………!!
ラダトームには王妃がいない。つまりラダトーム王の奥さんは恐らくなんらかの理由で死別しているのだろう。となると、そう、ローラ姫は一人娘でありたった一人の家族なのだ。
それなのに、王様……!
お前ってやつは……!!
王様というだけで、ここまでしなければいけないのか……!
もちろん一国の王、アレフガルドを治める王として、勇者が現れれば竜王を倒すことを依頼するのが先決ではあろう。そうでなくては、民を導き国を治めることなどできない。
しかしだ、王とはいえ人間……!
たった一人の娘のことを無視できるはずもない!民が竜王の脅威におびえ眠れぬ夜も過ごす中、王もまた娘を案じ眠れぬ夜を過ごしたであろう。
竜王が光の玉と娘を奪っていった!どちらを優先すべきかはあまりにも明白!しかし、そこで光の玉という決断をすぐさま下せるのであれば、人間に心などがある理由がない!しかしそれでも王は決断した!世界のため、そこに住む人々のため!
もちろん王だって姫のために何もしなかったわけではない。姫を救出するために兵を派遣している。しかしその救出隊は竜王の部下たちの強さの前に全滅してしまった。しかもそれを知るすべはない(ラダトームの町の片隅でひっそりと息絶えようとしている兵士がいるため)。しかし王は察しただろう。これほど帰りが遅いのであれば、希望はないだろうと。姫を救うことは、もう絶望的なのかもしれない……。そう観念してしまったかもしれない。
そこに1人の若者がやってきた。そうだ。
念願の勇者だ。予言にあった勇者だ。恐らくは常人よりも力を持っているだろう。なんといっても勇者なのだから。
王としては、当然竜王の討伐を頼むのが先決ではあるが、勇者なのだ。姫の救出を頼む絶好の相手ではないか?勇者なのだから。それくらいの頼みをしてもいいのではないか?
しかし王はそれをしない。
あんたってやつぁ……!!
王様、あんたってやつぁ……!!
別に、竜王討伐の依頼をしたあとで、実は娘もさらわれているから道中で助けてくれ、と言ってもかまわないだろう。優先すべきは竜王を倒すこと、でもできたらでいいから、と。
しかしラダトーム王はそれをしない。
あんた、高潔すぎるよ!!
あくまでも勇者にしてもらいたいのは竜王を倒すことだと言わんばかりに、余計な依頼をしようとはしない。姫のことは当然心配だ、しかしそれはあくまで私情。ラダトーム王にとって、そんな私情を挟むことなどはしてはならないのだ。
城の人々に話を聞けばわかるが、ローラ姫を心配し勇者に助けて欲しいと言わんばかりにその想いを吐露するものは多い。しかし一番心配しているはずの王はそれを決してしない。これが、国民と王の違い!格の違い!
ローラ姫ももしかしたら父のそういった性格を覚悟していたかもしれない。
自分を助けようと兵が派遣されているだろうことは、お姫様ともなればわかっているはず。しかし待てども待てども助けはこない。父は国のために動く人だから、もしかしたらこれ以上の助けは望めないのかもしれないと、少しは思っただろう。しかしそれが父の決断ならば、姫は責めることはしなかったと思う。やはりローラ姫もまた、ラダトームの上に立つ人間なのだから。
そんな、国民の上に立つ高潔な人間の生きざまを見せられて、何もしない勇者でいるわけにはいかない。
たとえ王に頼まれたわけではなくとも、ローラ姫のことは助けるものだろう。
己を差し置いてでも民のことを考えた王なのだから、その想いを叶えてやるのが勇者というものだ。
まぁそんな一人娘を勇者にとられてしまうんだが。
(文・やなぎアキ)
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