ブーメラン。
ドラクエ4から登場した武器で、ドラクエ5からは全体攻撃が可能になった非常に有用な武器である。
さすがに剣などに比べると攻撃力は劣るが、序盤でいえば申し分ない攻撃力であり、とりあえずこれを買っとくのが定石というプレイヤーも多いだろう。
なにしろ全体攻撃がノーコストで行えるのである。最初の一発目でブーメランを投げ、その後単体攻撃をする仲間が確実にとどめを刺していく、効率のいい戦い方だ。
というわけで、ドラクエ5以降はかならず購入する武器になっていた。
ひとたび購入すれば、たとえその後ブーメラン以上の攻撃力が店頭で売られていたとしてもしばらくはブーメランを手放すことはなかった。
できることならずっと使っていたい、もっと強いブーメランがあればいいのになぁとも思う。
それくらいにブーメランを信頼していた。
そして事件は起こった。
あれはドラクエ8のリーザスの塔。
ドラクエ8では初めての塔で、それにしては仕掛けが凝っておりなかなかに迷っていた。敵もそこそこに強い。
しかし、問題はない。
なぜなら主人公がブーメランを装備しているから。最強である。
しかし、突如としてやつらは現われた。
じんめんガエルである。
一見すると赤黒いだけのただのカエルである。なにがじんめんなのか。
とりあえず私は投げた、ブーメランを。
すると、いっせいにやつらは裏返るではないか!
急に意気揚々と踊るような動きをみせたやつらには、たしかにあった!禍々しい人の顔が!初めて見る仕掛け!これまでのドラクエ人生でこのように珍妙なモンスターは見たことがない!
そして目を疑う光景!
とんでもねぇ攻撃力、ギラ、火の息!
ああ!?何事!?なんで!?
ヤンガスが一匹を攻撃するとそいつは再び裏返り、ただのカエルとなった。大した攻撃力もないほぼ無害なカエル。
ここでね、
ああ、このモンスターに攻撃すると裏返って、そのとき強力な攻撃をしてくるモンスターになっちゃうんだな
って誰もが気づくんだよ。ブーメランは罠だったんだなって。ブーメランに裏切られる日が来るとはなって。
誰もが序盤はブーメランで無双したがるのを逆手に取った、開発者の巧妙な罠だと。いや、そこまで色々思惑を巡らせなくても、とりあえずブーメランを使うのはこのモンスターにとってはいい策ではないなとは気づく。
上手い。スキルシステムによってキャラクターは様々な武器を装備できるんだなぁと分かりやすく明示している今作で、このモンスターの存在はでかい。
そして、
それならブーメランで攻撃しないで剣とかに持ち替えて、一体ずつ確実に倒せばいいんだな
って気づくわけだ、プレイヤーは。
プレイヤーを強制的にレベルアップさせる、もはやイベントの一種である。
ブーメランに寄りかかっていたあの頃からの強制卒業。敵によって戦い方を変えろという教訓。それをこんなにも序盤に持ってくるとは。
ブーメランを無条件に信じることは、ここでやめるのだ。
だが当時の私は
わあああ!強い~~!早く全滅させなきゃ~~
ってアホみたいにブーメランを投げ続けたんだよ。愚。愚である。愚の骨頂である。
おかげさまで、モンスターは一気にひっくり返りひっくり返りひっくり返り。強力な攻撃を仕掛けてくるモンスター軍団が1ターンおきに現れるのである。毎回パニックである。なぜあのとき、ブーメランを手放さなかったのだろうか。まぁ愚だからだな。
こういうプレイヤーもいるのだ。多分私だけではない。私だけではないであれ。
ブーメランを恨みながらもブーメランを手放さなかった、そんな戦いもあるのだ。ブーメランへの過信がもう過信すぎて手放せなかった。愚。
ナンバリング作品ではドラクエ8にしか登場しないじんめんガエルだが、ぜひともまた登場して、今の子供たちにブーメランを信じすぎるなということを教えていきたい。
(文・やなぎアキ)
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