「ドラクエに、カードゲームあるよね?」
その問いに、多くのドラクエファンは頷くだろう。
「ライバルズね。面白いよね」と。
しかしそれだけではないのだ。「ドラゴンクエスト トレーディングバトルカード」の存在を、忘れてはならない。
「DQトレーディングバトルカード」と聞いてピンと来る人は、どれくらいいるだろうか?
古くからリアルのカードゲームへの進出を試みてきた「ドラクエ」の中でも、最古参に位置付けられるカードゲームだ。
しかも単発ではなく、シリーズ化されている「実力派」。1996年〜1997年にかけて、なんと第4弾まで発売された作品だ。
その幻の(?)カードパックが、未開封のまま新品で都内某所に売っている──そんな情報をTwitterで得たので、すぐさま足を運んでみた。
……いや、それでもまさかそんなことあるだろうか?
ガセネタかもしれない。
世間はドラクエライバルズに夢中だ。
というか、ドラクエウォークに夢中だ。
今さら「DQTCG」を売っていて、誰が買うのか?しかも、新品?20年以上たっているのに、そんな奇跡ってある?
もし売り物として並んでいるのであれば、話のネタとして写真の1枚でも撮ってやろう。
いやしかし、本当にあるのだろうか……?
あった。
当初の予定通り、話のネタにしようと写真を撮る。DQフリ編集部のTwitterアカウントでTweetしてもらおう。皆さんリツイートしてあげてね。
滅多に見られるものではないから、しっかりと目に焼き付けておこう。
貴重な貴重な、DQバトルカードゲーム未開封パックの姿を……
結構、ある。
マジか。
どっさりだ。
絵柄がエモい!
ゲマとパパスと5主人公という情報量モリモリの側面。どうやらDQトレーディングバトルカードの第3弾は、ドラクエ5がテーマのようだ。
こんな貴重なものが、令和になった今もなお売られている事に奇妙な感動を覚える。
しかも200円。当時のままの価格だ。
ふと横に目をやると……
おい、箱買い出来るぞ。
箱のデザインも90年代を感じさせる、良いつくりだ。
お?
しかも、結構あるぞ。
どこからこんなに手に入れたんだ……。
いやー貴重なものを拝めました。
このキラキラした包装を、当時の子供は目を輝かせて見ていたんだろうなぁ。エモいぞ。
レトロカードゲーム好きの人が見ると、今も目を輝かせるようなシロモノなのだろうか?
遊ぶ相手はいなくても、見て十分楽しめた。
満足だ。
ありがとう。
感慨深くなりながら私は店を後にした。
スタバに入って、パソコンを取り出す。
ふと、カバンに何か見慣れないものが入っているのを見つけた。
なんだろう?
キラキラと輝いているが……?
というか、買っちゃいました。
無理ですよ、こんな魅力的なアイテムを見て見ぬふりなんて。エモいんだぁ。
裏面はこんな感じ。
プリントの粗さが心地良い。
1袋に10枚入ってるらしい。
ダブルタックキラカードという、よくわからないけどワクワクするモノが1枚。
一般カードというワクワクさせてくれないものが9枚。
遊び方は超カンタン・超興奮!!
と書かれているものの、どう遊べばいいのかは説明されていない。
想像だと40枚くらいでデッキを組むんだろうけど、遊び相手もいないのにデッキ組んでも……という虚しさから、1パックだけ購入した。
だから私は正確にはデュエリストにはなれていないはずだ。ただカードを10枚だけ持つ哀れな大人でしかないのだ。
ちなみに、開封後に遊び方を読んで知ることになるのだが、DQTCGにデッキ枚数の決まりはない。10枚でもやれるという、お買い得カードゲームなのだ。
なんて良心的!!!
大まかなルールは以下の通り。付属の説明書から抜粋した。
ドラゴンクエストトレーディングバトルカードの遊び方
遊び方
プレイ人数2人以上
全員が100のHPでゲームをスタートし、HPが0になった人はゲームから抜けていきます。最後まで残った人の勝ちです。
カードの見方
以下の通り。
ゲームの準備
1.各プレイヤーが、それぞれ自分で集めたカードを持ちより、自分のカードをよくきって、裏にして自分の前につんでおきます。(カードは何枚でもかまいませんが、30枚〜50枚くらいがいいでしょう)
2.それぞれ上から5枚のカードを引いて、手持ちにします。
バトル
1.手持ちカードの中から1枚をえらんで、全員いっせいに出します。
2.カードには、ジャンケンと同じ意味を持つ3種類のマークがあり、石はグー、紙はパー、はさみはチョキをあらわします。
3.ジャンケンで勝った人だけが、カードのコマンドを実行できます。
4.コマンドは、ジャンケンで負けた人全員に有効です。たとえば、こうげきの場合はジャンケンで負けた人全員が、ダメージを受けます。D10なら10のダメージ、D20なら20のダメージ、という意味です。受けたダメージ分のHPが減ります。
◎ジャンケンであいこになったときは、すばやさの数字が大きい人の勝ちです。すばやさも同じ場合は、 そのカードを出した人だけで、勝負がつくまで、もう1枚ずつカードを出していきます。勝負がついたら、最初に出したカードのコマンドだけを実行します。
5.コマンドを実行しおわったら、自分の山札から、カードを引いて手持ちを5枚にもどします。
◎以上の1〜5を繰り返してバトルをします。
◎山札がなくなったら、手持ちのカードだけでバトルを続けます、手持ちのカードがなくなってしまった人は、その時点で負けになります。
◎HPは最大で100です。それ以上には増えません。
なるほど、大人数でも楽しめる「ジャンケン系カードゲーム」というわけか。
……だめだ、家まで待てない。
私は、スタバで開封の儀を執り行う事にした。
開封しづれぇ!!!
遊戯王カードみたいな、中央の掴む場所もない。切込みも、ない。
エニックスさん!
エニックスのトイホビー企画部さん!(当時)
どうやって子供にこれを開封させようとしていたんです?
1分ほど格闘して、堪え性のない私はすぐに諦めた。
恥を忍んでスタバの店員さんに「ハサミを貸してください」と告げる。
「すみません、ハサミはお貸しできないんですよ!」
「……そうですか」
「はい」
席に戻る。悲しい顔をしていたと思う。
いいトシした大人が、スタバで1人、古いカードゲームのパックをどうにか開けようとする。それを恥じらう余裕がないほど、早く開封したいという欲求が高まっていた。
流石に噛みちぎるわけにもいかない。
「私はシコルスキー……私はシコルスキー……」
握力自慢の漫画キャラを己に降臨させる事で、なんとか切りぬけようとする。『ヨーイドン』でしか走れぬものは格闘技者とは呼ばぬ。試合とは読んで字のごとく、あくまでリハーサルに過ぎない。
開いたァァァ!!!
大人を!大人を舐めるなよッッッ!!!
早速、中身を確認する。
……ここまで長々書いてある前置きを、ほとんど読まないでスクロールした人、手をあげなさい。怒らないから。
どぐうせんし
こうげき D20
しょっぱい。
1枚目のため基準はわからないが、なんとなく察する事はできる。
20は、絶対弱い。
子供は「20」という数字では興奮できない。
ちなみにこんな感じで開封し、写真を撮っている。
隣には素敵なマダムが座っていた。
チラッとこちらを見てからは頑なにこちらを向かないようにしていた。理由は私自身でも容易に察することができる。ごめんなさい。
それにしても、このゲームの基準となる「強さ」がわからない。20は最弱なのか?それとももっと弱いやつはいるのか?いや、多分弱い。
次の1枚をめくった時、その予感は確信に変わっていく。
スモールグール
こうげき D20
なかまをよんだ
スモールグールを
もう1枚続けて出せる
スモールグールごとき(?)と同一の攻撃力。しかもスモールグールはカードを続けて出せるという特殊効果付き。
すばやさでも、どぐうせんしが19のところを、スモールグールは40。何から何まで勝てそうな要素がない。
それにしても「遊び方は超カンタン!!!」と謳いつつ、特殊能力が既に難しい。スモールグールをもう1枚出せるというのは、デッキからだろうか?手札からだろうか?手札から出した時、この効果は再度発動させて良いのだろうか?もしそうであれば、手札にスモールグールが4枚あっただけで勝ち切れることになる。
ここは多分、1枚しか出せないのだろう。
しかしローカルルールの出来る余地がある効果に思える。難しい……難しいぞ、DQTCG。
しかしスモールグールもしょっぱい部類に入るはずだ。子供がスモールグールを奥の手に持っておくようなカードゲームを作るエニックスさんではない。きっと、見るからに明らかに、強いカードがあるはずだ……!
ドラクエ5がテーマなら、やはり仲間モンスターが欲しいところでもある。
キタ!!!
グレイトドラゴン!
まだ本編で仲間にした事がないグレイトドラゴンが……!!!
絶対強いはずだ。早速、攻撃力その他諸々を確認する。
シーザー
1枚-こごえるふぶき D20
2枚-かがやくいき D40
3枚-しゃくねつほのお D50
待って。
1枚だと攻撃力がどぐうせんしと変わらないの?
すばやさだけは破格の強さだけど、威力はどぐうせんしと同じなの?
2枚出すとしても、スモールグールと同じダメージしか与えられないの???
グレイトドラゴン、3枚手札に集めないと強くないじゃん!
いや……もしかしてD20はめちゃくちゃ強いのか?
感覚的に、グレイトドラゴンたるもの、D80くらいあって欲しかった。
でもそんなにあると、2ターンで勝負が終わる可能性があるのか。それはまずいな。
いや、HPを100にしなけりゃ良いのでは?
差が出ないのは、ちょっとつまらない気がしない?
うーむ。たくさんは買ってもらえない子への配慮も、大切だからなあ。
バピラス
こうげき D30
2回こうげき
バピラスもう1枚を
続けて出せる
いや、お主、グレイトドラゴンより強いんけ!
グーとチョキだから直接対決では勝てなくとも、グレイトドラゴンより攻撃力強いんけ!
2枚持ってたらグレイトドラゴン3枚分のダメージ量を上回れるのか……
それにしてもこのゲーム、カードの重複を前提とした組み立てが求められるゲームだ……
ガルバ
1枚-マヌーサ
次の回だけ、グーのカードの
こうげきは全てミス
2枚-こうげき D40
またまた複数枚による効果のあるのカード。
すごい戦略的なカードだ。
次に相手がグーを出してこないと仮定すれば、パー・チョキの戦いになるわけだから、絶対にチョキ出しておけばいいわけだ。
たとえグーを出されても、無効化なんだからマイナスにはならない。
素早さのあるチョキカードがあれば、えげつないコンボができそうなカードである。
私が出されたら裏をかいてグーの素早さ低いカードを捨てられるターンということにしてしまうけれど。
キタ!!!
これでもう勝ちだ。
可愛いから勝ちだ。
スラリン
1枚-メダパニ
こうげきのカードを
出している人は、
そのこうげきを自分で受ける
2枚-しゃくねつほのお D50
スラリン、なんと素早さが255である。
多分これはMAX値ではないだろうか。
※「255」を2進数で表記すると「11111111」であり、2進数の8桁(8bit)の数の上限である「255」はドラクエ初期のステータスMAX値にされていた。ベテランSEや基礎的なプログラムを勉強中の人の耳元で255と囁くと、ちょっとイヤな顔をされる。
スラリンも、1枚で十分強気になれる性能を持っているカードだ。
純粋な火力勝負ではない感じがまた良い。製作陣の、スラリンへの愛とのだわりが感じられる。スラリンは至高の存在であり愛を捧げられるべき存在だから当たり前でもある。
ベテランデュエリストと戦う時はスラリンでひと泡ふかせる作戦でいこう。
え?戦う予定はあるかって?
もちろん、そんなものはない。
ドロヌーバ
なかまをよんだ。
ドロヌーバ合計3枚まで続けてだせる
1枚につきD20
まーた重複前提の効果か。
これしかないのか?
あと、ここで「3枚まで続けてだせる」という時点で、スモールグールが連続5枚出しとか出来ないというのはわかる。
ただガキ大将がスモールグールをたくさん持っていた場合「上限が書かれているドロヌーバは3枚だけど、スモールグールは上限書かれてないから無限に使えるんだからな!」とか言われそう。
桜田門外の変を起こす子供が出てきそうだ。
キタ!!!
コドラン大好きなのよ。
コドラン
1枚-あまいいき
次の回パーのカード出せない
2枚-こうげき D40
あまいいきは中々使えそう……というか、ガルバとほぼ同じである。このカードゲームでは「ガルバ=コドラン」という図式が成立してるのか。
ガルバの方が正直強いと思う一方で、思い出補正があるコドランも応援したい。なるほど、絶妙なラインかもしれない。
お前はチョキであれ。
キャプテンクック
こうげき D30
なかまをよんだ
シードック1枚を続けて出せる
さっきからさ、グーチョキパーは何で分けてるかわからないんだよね。
両手が刃物でもパーという判断なのね。
めちゃくちゃ鋭利なのにね。
説明書。
上述のルールはここから引用している。
通常スライムの攻撃力はD10のようだ。さすがに弱過ぎる。
ラスト1枚は、ダブルタックキラカードと思われるもの。なんだかよくわからないけどワクワクする。
光ってるなぁ。
本当に使い道がわからない。
このキラキラした感じ、エモい……。
……と、思いきや、後日このキラキラはシールになっていて、剥がせるということが判明した。
剥がして現れたカードがこちら。
Ⅴ主人公
こうげき D20
ベビーパンサーかパパス
どちらか1枚を続けて出せる
これは……パパスとかベビーパンサーを持っていないとかなり弱いカードなのでは……
何がどうなって、こんな悲しい事に……
やはり、幼少期は無力なのだろうか……
さて、お楽しみいただけただろうか?
正直な話、こんなに童心に帰って遊べる(眺める?)とは思っていなかった。
さすがドラクエ、想定を超えてくれる!
まだインターネットが普及していない時代の遊びを振り返って、このタイミングでインターネットの海に画像を放流するのもなかなか意義があるような気がする。ない気もする。でもまたタイミングを見て、もう何パックか買ってみたいと思えるほど楽しかった。
そしてカードが増えた頃、対戦相手がいないことに気がついて絶望するのだろう。
いつまでもこんな事をしていると、ミルドラース様に「いい加減、大人になれ」と一喝されそうだ。
……改めて考えてみると、キラーパンサーとかゲマ様とか、引きたかったなぁ。
Q:どっちを選ぶ!?フローラとビアンカ
A:どちらにも選ばれませんでした
(文・深々シン)
対戦してみました
こちらは2014年頃発売された方のカード
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