日々の疲れを癒してくれるものってたくさんあります。美味しいごはん、あったかいお風呂、ふかふかのお布団……そしてお酒。
仕事終わりに寄る居酒屋が楽しみだったり、ちょっとおしゃれなバーに行ってみたり、家でのんびり飲んでみたり。
おや?シドー君もどうやらバーに行くようですよ?
マスター、いつもの。
いつもの、「ウェーイ、ハッハー、ウェーイ、ハッハー」な彼はどこに行ったのでしょうか。
とてもけだるげです。フランス語でいうところのアンニュイです。夜も更けて、みんな(てか主人公)がそろそろ寝ようかなというときに、こんなバーに足を運ぶ一面が彼にあったとは。大人すぎる。大人すぎて悔しさで下唇噛む。バーなんて、上級職「コミュニケーションスペシャリスト」しか入れないところです。
かしこまりました。
マスターは注文を受け付けると、手際よくシェイカーをふり始めます。
並のバーアー(バーに来る人の意(嘘))であれば、ここでマスターのふるシェイカーをアホ面して見つめることしかできません。「ばぁぁぁぁ、すごいふってるぅぅぅ、わかんないけど、すごい熟練のわざぁぁぁ」とかばしゃばしゃよだれを垂らして見つめることしかできません(偏見)。
しかしシドー君はマスターの見事なシェイクっぷりに一切目を向けず、前だけを神妙な面持ちで見つめます。これがプロバーアーとアマバーアーの違いです。
こちらでございます。
すっとマスターが飲み物の入ったグラスを滑らす。
これはもう常人だったら「あびゃあああああ、映画みたいぃぃぃぃ。グレイテスト・ショーマンで見たやつぅぅぅ」と鼻水をまき散らすやつです。
でもシドー君はそもそも映画とか見たことないので、「ありがとよ」といってただ受け取るだけです。エンターテイメント格差を逆手にとっています。
うまい
うまい
うまい
ひとたび飲み始めれば、あとは狂ったように「うまい」を連呼するだけの呑んだくれマシーンになります。この怖さがプロアマの違い。
「このルビーラきれぇい、ねぇねぇ写真とってSNSアップしなぁい?じゃあ撮るよ~。やばぁい、店内まじ暗すぎぃ。でもこんなに綺麗に撮ることができるぅ、そうiPhoneならね」とかやらないんですよ、シドーさん。
ただひたすら狂ったように「うまい」を連呼する。店内にいるのは「うまい」を連呼するシドー君と、マスターのみ。この異様な空気、狂気に耐えられるものしか、マスターにはなれない。マスター・マスター。
そしてルビーラを飲み干したシドー君が次にとる行動、それはなんなのでしょうか。
答えは沈黙。
バーに静寂の時が流れます。一杯で十分なのです。それをさっさと飲み干し、黙ったまま居座り続けます。バーの回転率とか度外視。
町のどこかでカルロが何かに満足しハートを1つ排泄排出したようですが、バーではそんなことは関係ないです。というかカルロ、さっきマスターがシェイクってる時も排出してたな。
マスター(早く帰ってくれないかな)
シドー(帰るタイミング見失っちまったな)
ようやくお客がもう一人来たところで、二人の間に安堵の空気が流れたことは言うまでもありません。
(文・やなぎアキ)
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