ドラクエのイケメンといえばたくさんいる。
王道のテリーから悪役なのに大人気のホメロス、もちろん主人公たちも欠かせない。
そんなイケメンたちの中でも、そのイケメンっぷりを最大限に活用して生きている男がいる。
ドラクエ8のククールだ。
ドラクエの仲間たちにしては珍しい、軽薄な色男。むっつりスケベだなんだとそういうキャラはこれまでもいたが、イケメン枠でこれはめずらしい。
ギャンブルとお酒が好きで、女性をナンパして口説くのも好き。
初対面でいきなりイカサマをかまし酒場で大騒ぎ、どさくさにまぎれてゼシカを口説いたりなんてして、第一印象はあまりよくない。
そんな調子だというのに、実はマイエラ修道院の聖堂騎士団の一員。一応神に仕えるものである。
が、ククールだけ制服の色が違う。騎士団の中でも異端の存在だ。
その生い立ちは暗く、ドニの領主の子供であったが両親が没落＆病死し幼くして修道院入り。そこで出会ったマルチェロは実は腹違いの兄で、ククールが生まれたことによって捨てられたマルチェロはその恨みから辛辣な態度をぶつけるばかり。唯一の肉親から恨まれ、修道院自体も腐敗しており、そんなところですくすくと育てという方が無理というもの。すかした態度で人を小馬鹿にし、教会の腐敗を鼻で笑い、そんな自分に対してどこか諦めている。そう育ってしまっても仕方がない。
こうしてククールはドラクエ随一の、人生達観色男になったのだ。
そんな何事にも冷めているようなククールだが、実は内側には熱い熱い思いが燃え滾っていたりする。
そう、だからこそみんなククールというキャラクターが好きなのだ。ただのすかした女好きではないもっと深いキャラクターだからみんな好きなのだ。
ククールは自分が育った修道院に対してさして愛着はないが、自分を引き取ってくれた院長オディロのことは純粋な気持ちで尊敬している。オディロ院長が危機に陥れば、その身を犠牲にしてでも助けに行く、そんな激情家な一面を見せてくれる。かっこいい。
ククールのような男がなぜ主人公たちの旅についてくるかといえば、オディロ院長の仇打ちである（体よくマルチェロに追い出された感も強いが、そうであれば別に修道院を出た後主人公たちともお別れしてもよさそう）。そのまま世界を救うため共に戦い続けてくれるのだから、表面上の軽薄さだけで彼を見てはいけない。案外義理堅いやつなのだ。
あんな腐りきった修道院で育っておいて、たしかに性根が曲がってしまった部分もあるかもしれないが、それにしたって随分まっすぐに育ってくれたものだ。オディロ院長が彼にどれだけ優しく真摯に接してくれていたのかが関節的にわかる。
オディロ院長にだけ心を開いているかと思えばそんなわけもなく、仲間になったばかりのころトロデに自身の生い立ちを吐露する場面もある。彼の性格とその生い立ちの悲しさから言って、誰にも打ち明けたくない話だろうに、トロデには言ってもいいかなと思ったわけだ。見た目緑のモンスターの、態度だけでかいおっさんなのに……。それでも話そうと思えたということは、王様というのはさすがに信じられないにしても信用に値する大人だと思ったからだろう。ククールの人を見る目は侮れない。
他の仲間についても、ゼシカ以外には適当な態度であったり、なにかと面倒くさがったりと一見仲間意識は低そうだ。旅そのものについても、時折文句を言ったり、やはり面倒くさがったりと、ドラクエ11の名ナビゲーション・カミュがいたら一触即発の喧嘩になるのではないかという態度をとったりする。
が、ちゃんと彼も旅の一員としての自覚はあり、ラプソーンによって殺されてしまった人々を思い全力で悔しがったり、ミーティア姫とチャゴスの結婚式の際には主人公に「仲間だから」という理由で手を貸したりする。好き。
極めつけはもちろんマルチェロとの一筋縄ではいかない関係性だ。
マルチェロはククールのせいで自分の人生が狂ったと信じて疑わず、彼に深い憎しみをぶつけるばかりだ。ククール自身もそんな兄を嫌ってはいた。マルチェロは旅の随所随所で主人公たちの前に現れ、嫌味をなげかけては着実に上へ上へと登って行った。
その異様な向上心によってマルチェロはとうとう命を落とす寸前まで行ってしまう。考えてみれば、そのまま死んでしまってもかまわない悪人なのだが、それでもククールは兄を救うために手を伸ばす。
さんざん憎まれひどい扱いを受け、それでもククールはマルチェロが一度だけ見せてくれた優しさを胸に、彼を助けるのだ。尊い。
ドラクエ8のキャラクターたちの中でも、一段とビターな人生を送ってきたククール。
見た目だけではない、まさしくイケメンにふさわしい。
それだけかっこいいのに、PS2版どころか3DS版のパッケージにも描かれていないククール。タンバリンの話よりもこっちのほうがよほど悲しい……。
しかし今ではライバルズでこれでもかと美形っぷりを発揮してくれている。ありがとうありがとう。
（文・やなぎアキ）
関連記事
