サマディーの王子ファーリス。
日々騎士となるべく訓練に励み、国民からの人望も厚く、将来を期待されている16歳の王子。
しかしその実態は剣も馬術もからきしなへたれ王子だった。
勇者たちが国宝である虹色の枝を探しているのをいいことに、ファーリス杯の際に自身の代わりに出るよう半ば強引に頼んでくる。
虹色の枝を盾に脅すような態度をとり、ベロニカには「サイテー」と言われてしまう。
と、このように歴代のダメ王子と同じようになかなかむかつくところがあるファーリス王子だが、これがどうにも憎めない。
これまでのダメ王子、つまり6のホルスや8のチャゴスなどと比べると、そこまでむかつく要素がないからかもしれない。
尊大な割には素性もわからない旅人に対してちゃんと「さん」付けをしている。これだけで正直めちゃくちゃポイントが高い。育ちの良さがうかがえる。王子なんだから育ちが良くて当たり前だろと思うかもしれないが、チャゴスを見れば「さん」付けするだけで評価が上がるのは致し方ない。一介の旅芸人であるシルビアにも丁寧なふるまいをする。王子には品がある。
振る舞いも別に無礼なわけではなく、虹色の枝を盾にすることはあれど影武者を頼む際にはちゃんと頭を下げているし、デスコピオン討伐の依頼の際には土下座までしている。一国の王子がである。人にものを頼むときの態度がわかっている。この処世術のおかげで彼は今までなんとか取り繕って来たのであろうことがわかる。
「さん」付けにしろ頭を下げてものを頼むのにしろ、王子なんだから自分はすごくえらいんだぞ!と思っていてはなかなかできない行為だ。現に彼からは「王子なんだから僕のことを敬え!」といった雰囲気はあまり感じない。頼み事は真摯に行っており、王子なんだから逆らえないだろ?ということは一切言ってこない。あくまで虹色の枝を盾にするだけである。身分を笠に着せないのが、彼のことを憎めない理由の一つかもしれない。
自室に『ポジティブのススメ』という本があることにも言及したい。「立派なリーダーでありたいなら常にポジティブであれ!」と書かれていることから、彼なりに国の王にになるためにはどうしたらいいかを考え模索していたのが見て取れる。なんていじらしいんだ。そんな本を読む前に訓練に励みなよと思わなくもないが、両親からの過度な期待からそんな本に頼りたくなってしまう気持ちもわからなくはない。何か自分でもできることはないかと必死で本を漁っているのではないかと思うと、応援したくもなる。
王子の事情を知っている一部の城の兵士たちも、王子に不満は持ちながらも、デスコピオン戦のときはなんだかんだ逃げ出さないところを見ると少しは慕っているのではないだろうか。ホルスやチャゴスとは大違いである。
勇者たちが退治したデスコピオンが復活した際には、シルビアに鼓舞されたった一人立ち向かう。これまで散々逃げてきた彼だが、シルビアの「卑怯者で終わりたくなければ戦いなさい」という言葉に一念発起し、騎士への第一歩を踏み出したのだ。彼自身も、今のままではいけないんだと思っていたわけだ。立派な騎士になりたかったわけだ。
しかしいくら鼓舞されたからといって、いきなりあのデスコピオンと一騎打ちをするとは、生半可な勇気ではない。デスコピオン、普通に強いし。勇者たち、5人がかりで倒してるし。デスコピオンの恐ろしさを王子は目の前で見ているはずだし。
それでも一人で立ち向かうのだ。
そんな姿を見せられて、どうして彼のことを嫌いになれようか。
しかも彼はデスコピオンの攻撃を剣一本でなんとかしのぐのだ。一朝一夕でできることではない。訓練をしていないとは言っていたが、なんだかんだで身につけようと頑張っていた時期もあったのではないか?そんなことまで考えてしまう。
その後デスコピオンに剣を折られた後も、なんと彼はそのまま果敢に挑んでいく。あの姿には思わずしびれた。
もう誰もファーリス王子のことをヘタレとは呼ばないだろう。
すっかり自信をつけた王子は、その後は危険なことにも果敢に挑戦するようになった。何かあれば上手く人を使い調査をしたりと、上に立つものとしての素質もうかがえる。
勇者の親友を自称しているが、正直まんざらでもない。親友をひたすらにほめたたえる彼の気さくな姿を見て、国民はますます王子を慕うだろう。
サマディーの未来は明るいのである。
これからも彼の活躍に期待したい。頑張れファーリス王子!
(文・やなぎアキ)
一方その頃サマディー王
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