ラインハットの太后になりすまし、国を乗っ取っていたニセたいこう。
王のデールはお飾りで、実権を握って城内に魔物まで連れ込んでいた。
国民に重税を課し、税を納めないものは処刑する。その悪政ぶりは近隣の町まで鳴り響いていた。
そんなニセたいこうは当然主人公たちに倒される。
今わの際の言葉は
「おろかな人間どもよ……オレさまを殺さなければ、この国の王は世界の王になれたものを」
いや無理じゃね??
世界のことを舐めすぎでは?
たしかにラインハットのことは牛耳れていただろう。だからといって、世界の王はあまりにも言い過ぎである。世界の王、つまりは世界征服のことを言いたいのだろうが、あの世界でそれをやるのは少々無茶。
世界にはまだまだ国がある。それだけではない、有力者のいる町や村だってある。それらを全て制圧する力があのニセたいこうにあるのだろうか。たかだか城の中庭でドラゴンキッズを飼っているだけで思い上がりも甚だしい。ラインハット周辺のモンスターなんて世界基準でいえばてんで弱いというのに、やれやれ。
まずニセたいこうの前に壁として立ちはだかる有力な候補はグランバニアだろう。パパス王がいたときに比べれば国として頼りなさは感じるかもしれない。しかしラインハットごときがやすやすと攻略できる国でもない。さらにグランバニアと親交が深い国にテルパドールがある。あの国は表立って戦に参加したりはしなさそうだが、グランバニアを支援するくらいのことはするだろう。対するラインハット、世界侵攻すらしていない時点で近隣からの評判がすこぶる悪い。孤立している。もうすでに勝機がない。何をもってして世界の王などと大きく出たのか。あんまり世界のこととか詳しくない感じ?
他には王族に引けと取らない財力を持つ富豪のいるサラボナ、断崖絶壁という地の利を得たエルヘブンも手ごわいだろう。幼少期に訪れるレベルの国であるラインハットの武力では到底太刀打ちできないに決まっている。大体、主人公たちが奴隷生活を送っていたおよそ10年の間で、ようやくラインハットを乗っ取っていた進行度では、世界の王を獲りに行くのはいつになることやら。その頃にはラインハットの住民はみんな亡命しているだろう。まずは自国の管理をしっかりしろ。そんな様子ではカボチ村くらいしか手中に収められないぞ。
そしてニセたいこうが絶対に世界の王になれない決定的な理由がある。
ニセたいこうは光の教団をご存じでない?
そう、ミルドラースの存在である。ミルドラース自身は魔界にいるが、その手下であるゲマ・ジャミ・ゴンズ・イブールが光の教団を隠れ蓑にどんどん人間界に侵食しているのだ。
これにあのニセたいこうごときがかなうわけがない。まじであいつなんなんだ。
これが、ニセたいこうも実はミルドラースの手下で光の教団の一員でラインハットを拠点に侵攻していた、とかならわかる。だが、どうもこいつは単独で世界征服をもくろんでいたのだ。井の中の蛙とはこのことか。顔もちょっとカエルに似てるし。
主人公たちが倒さなくても、いつかは光の教団の存在に気づき、己の矮小さに気づいて膝を地につけていただろう。
というか多分こいつ魔界の存在も知らないだろ。人間界の王になったところで魔界があるかぎりはその存在に怯え続けなければいけないというのに。それとも魔界の王にもなるつもりだったのだろうか。こいつの構想はどういったものだったのかが本当に気になる。ラインハットを思ったより簡単に乗っ取れたから天狗になっちゃったのかな?
こういう魔王とは直接関係のないボスは他作品にも色々といるが、魔王を差し置いて世界征服をたくらむ身の程知らずというのは少々珍しい。基本は一国や一地域の支配で満足しているため、志が高いと言えば聞こえがいいが、マジで本当に世間知らずすぎる。
ところで今わの際のセリフの「おろかな人間どもよ」なのだが、本当に意味がわからない。なんでラインハットが世界の王になるのを阻止したことが愚かなことになるのか。たとえラインハットのトップが魔物じゃなかったとしても、世界の王にはなってほしくないのだが。もしかしてニセたいこうは、オレが世界の王になれば、人間にとっても世界はより良いものになるのに!とでも思っていたのだろうか。城の前にいる物乞いの姉弟のこと見えてないのか??やーねぇ、世間が見えてない人って。
(文・やなぎアキ)
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