ドラクエの最弱モンスターはスライム。
これはもう揺るがない事実。
しかし、ナンバリングタイトルにはそれを覆す例外がいる。
ドラクエ6のぶちスライムだ。
旅のスタート地点であるライフコッド周辺およびに現れる、スライムより一回り位大きく黄色い体躯に黒いブチ模様が印象的なスライムだ。
そして当のスライムは、下の世界の町、トルッカ周辺にあらわれる。
これはなぜかという疑問に、一つの説がある。
いつもいつでもモンスターの中で最弱だったスライム。スライムは思った。
自分よりも弱いモンスターがいればいいのに。
そんなスライムの願い、夢が、夢の世界で実を結びぶちスライムという存在を作った。
これは公式設定ではなくファンの考察だが、とても理にかなっていると思う。ぶちスライムは夢の世界にしか存在しないからだ*1。そしてぶちスライムというモンスターはながらくナンバリングタイトルでは登場しなかった。しかも登場しても、結局スライムより強いモンスターになっているのだ。
スライムよりも弱い唯一のモンスター、ぶちスライム。それが、夢と現実というそれぞれの世界があるドラクエ6という作品でのみ登場する、というならやはり夢が何か関係していると考えるのは自然だろう。
この、自分より弱いモンスターがいればいいのに、と夢を見たスライムは、1個体なのだろうか、それともスライム全体の意識なのだろうか。
自分よりも弱い存在を願うだなんて少し情けない気もするが、だからこそ切実な思いを感じる。
一見後ろ向きにも思える夢だが、こう言いかえればいい。
誰かよりも強くなりたい、と。
誰よりも弱い自分だが、誰かよりも強くなってみたい。
それは、とても前向きで美しい夢だと思う。ドラクエが生まれたその時から、ずっと最弱だったスライムたち。その彼らが、強い意志を持ったのだ。強くなりたい、と。
こうして生まれたぶちスライム。旅の始まりに戦うモンスターとして、とてもドラマチックだと思う。自身の住む世界が偽りの夢の世界であることを知らぬ青年が出会う初めてのモンスターが、夢によって生まれたモンスターというのは。
現実の世界では結局スライムが最弱だが、夢の世界のぶちスライムという存在はスライムたちに大きな希望を与えただろう。
夢の世界が消えたとき、ぶちスライムという存在も消えてしまったはずだ。
でもスライムが誰かより強くなりたいと思い続ける限り、彼らの中でぶちスライムは生き続けるのかもしれない。
ドラクエ6では多くの人々がその夢を夢の世界で叶えている。
兄が欲しかった少女、バザーの町を作りたかった老人、ベッドに乗って空を駆けたかった少年、幸せだったあの頃に戻りたかった恋人たち。
そして、誰かより強くなりたかったスライムたち。
ぶちスライムというモンスターに込められた思い。
それを知らぬまま、いや、世界のことも何も知らぬままライフコッドの青年は旅に出る。世界の真実を、そして現実を知るために。
す、すごい。ドラクエ6、最高すぎる……。
(文・やなぎアキ)
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*1:ぶちスライムの派生モンスターは下の世界にもいる