ドラクエ史上最も「いやこっちのセリフだよ」と思いたくなるなるセリフはもちろんドラクエ2サマルトリアの王子初登場時のセリフ。
いやー さがしましたよ
今更このセリフがどういったものなのか説明しなくてもよさそうだが、一応ざっと説明。
世界の平和を脅かすハーゴンを倒すため旅に出たローレシアの王子は、自身と同じくロトの血を引くサマルトリアの王子を仲間にすべくサマルトリアの城を訪ねる。しかし一歩及ばず彼はすでに旅に出た後。彼のあとを追い勇者の泉、ローレシアの城、またしてもサマルトリアの城と行ったり来たりを繰り返し、ようやくリリザの町で出会ったサマルトリアの王子は開口一番こう言う。
いやー さがしましたよ
探してたのはこっちだよ!!と多くのプレイヤーが思い、妹の言う通りののんきものであることを決定づけたあまりにも有名すぎるセリフである。イラっとした、とまではいわないが、お前が言うのか!と少なからず思ったのではないだろうか。
一緒にハーゴンを倒しましょう!と言われても、こちとら方々探し回って息切れしているんですが?という状態なのでちょっと受け入れがたかったりする。
こっちのセリフだよ!何だお前!じっとしとけや!手間取らせやがって!等々言われる要因であるこのセリフ。
では一体どんなセリフだったらもっと気持ちよく同じロトの子孫として握手できただろうか。
あくまでも、
・たらいまわしにされて探し回ったあと
・リリザの宿屋でくつろいでいる(ように見える)
という前提は崩さないこととする。
「ここで待っててよかった!」
こっちが会おうと頑張っているのに、サマルトリアの王子がちょっとも立ち止まらず先に進んでいくのが原因であのセリフにわだかまりが生まれてしまっているのだ。
ならば、最後出会ったときに「動き回った」という印象を少しでも払拭させればいいのではないか?
ということで、リリザの町で待っていたから出会えたんですよ!ということが感じられるセリフならどうだろうか。それまで散々動き回っていたわけだが、これを言われると「たしかに待っててくれて助かったよ……」と思えそうである。
ちょっと恩着せがましいなとも思うが。「最初からサマルトリアの城で待ってろよ」と。
「御足労おかけしまして」
たった一人で大陸を行き来したローレシアの王子を、少しでも労ってはどうだろうか。
それを言うならサマルトリアの王子もたった一人で行き来しているが?となるが、条件が違う。こっちは脳筋である。限られた薬草をやりくりしていったり来たりしなければいならない。片や向こうは魔法戦士である。ホイミが使えるのだ。この違いはでかい。薬草を買い込んでなおホイミも使えるというアドバンテージは、薬草がなくなったらなすすべがないこちらと比べて精神的疲労が変わってくる。装備品もそろえなければいけないのだから、モンスターから得られる微々たるゴールドをすべて薬草につぎ込めるわけでもないのだ!
だから!労ってくれても良かろう!
が、これはこれで「御足労おかけさせんな!」と思ってしまう。お前がじっとしとけば大した御足労でもなかったんだよ!と。
「はっはっは 追いつかれちゃいましたか」
いっそ振り切って、もっと「なんだこいつ」と思わせるのはどうか。
サマルトリアの王子を追っているときに頭をよぎる、
どうしてじっとしていられないんだ?なぜなんだ?
という疑問。お前がじっとしてくれさえいれば、ことはすぐ解決するというのに?という疑問。
ここで王子と出会ったときに、「追いつかれちゃいましたか」と言われることにより、
あ、意図的だったんだぁ~
というアンサーが得られるわけだ。意図的だったんならそりゃどんどん逃げていくよね、と。
ちなみになんで逃げたのかは多分解決しない。恐怖である。サマルトリアの王女が「お兄ちゃんは人を困らせるのが好きなの」とか言ってくれるかもしれない。そんなロトの子孫は嫌だ。
そういうことはもう言わない
もういっそ言わない。自己紹介と一緒に頑張る旨を伝えて終わり。プレイヤーに何か思わせる隙を与えない、いっそ。それが最適解。
ただしそれをしてしまうと、サマルトリアの王子というキャラクターになんの性格付けもできなくなってしまう。
「いやーさがしましたよ」というあの一言だけで王子がどういう人物なのかを印象付けたことを考えれば、ここで何も言わないことで生じる彼という自我の喪失は明らかである。
「こっちのセリフだよ」と思われない代わりに、彼はキャラクター性を失うことになってしまう……。怖い。
それにしてもこのセリフ、「さがしましたよ」もそうだが、何より「いやー」の破壊力がすごい。これがあるだけで、彼は何の悪気もなくただただマイペースなやつなんだな、仕方ない奴め、と思わせてくれるのだ。たとえ能力的に貧弱であったとしても、マイペースなのんきものだしな、と思えば致し方ないのである。
限られたファミコンカセットの容量の中で、たった一言の選別を間違えない堀井雄二さんはさすがだ……。
(文・やなぎアキ)
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