メルキドのある男が肩を落として歩いている。
なにやら相当参っているようだ。
はぁ~~、明日から職なしだよ~。
いや俺もね?嬉しいよ?これだけ陽の光を浴びることが出来る日がまた来てさ。
やっぱりお天道様っていうのはあったけぇなぁ。顔に当たる光がこんなに気持ちのいいものだなんて思わなかったよ。ずっと、地下も外も変わらないくらい暗かったからな。
やっぱり太陽っていうのは大事だよ。こうやってまた、明るい道を歩けるってことには感謝しないといけねぇ。
でもなぁ~~。
急に職失ったよなぁ~~。
これからどうしよ~。
みんなはいいよな。今までろくに働かず家に引きこもっていたっていうのに、外が明るくなったとたん活力に満ちやがって。
防具屋も武器屋も、商売のノウハウはあるわけだから簡単に転向できるだろうしな。
でも俺にはこの仕事しかなかったんだよ!
こんなこと言ったら罰当たりだけど、正直モンスターたちがいたから俺は生活できていたんだもんなぁ。
勇者さまには悪いけど、こんな世界だからこそ生計を立てられていたやつもいるんだよ。そこんとこわかってほしかったなぁ~。いや俺は一度も勇者様に話しかけられたことはないんだけど。町中の人に話しかける勇者さまも、俺と向かいのカウンターの荒くれには話しかけなかったもんな。話しかけても大した情報はもらえないってわかっていたんだろうな。まぁそうだ。俺が教えてあげられるのは、次に勝つモンスターくらいだからな。それも、当たらなかったら信用がた落ちだ。大方別の格闘場の予想屋が外しやがったんだろう。誰かが外せば予想屋全体の信用にかかわるんだ。くそ。
だが、勇者さまに信頼されなかったとしても俺はなんとか生計を立てられていたんだ。
くそ、ゾーマが倒され、モンスターがいなくなったこの世界で、モンスター格闘場はこれから一体どうなってしまうというんだ!
俺みたいな予想屋は、ここがなくなったらもうどうしようもないんだ!
格闘場の連中も困っていたみたいだったなぁ。そりゃそうか、モンスターがいなきゃ何も始まらないもんな。これまで調達していたモンスターたちが一切合切いなくなっちまったんだ。
これから一体何を戦わせればいいんだ!?って動揺していたなぁ。
そのあと、こうなったら人間同士を戦わせるしかない……って言っていて、恐ろしくなって思わず逃げ出してきちゃったんだよな……ああ太陽がまぶしい。
あのまま本当に人間同士を戦わせて賭けさせるようになるなら、俺が真っ先に戦わされるだろうからなぁ。でも俺は格闘技の心得も剣術の心得もないからすぐ負けるに決まっている。どんな予想屋だって、俺が勝つって予想するやつはいないだろうさ。
これからどうするかなぁ。
マイラんとこのすごろく屋はいいよなぁ。あっちもモンスターがいなくなって面白さはだいぶ変わるかもしれないけどさ、結局はサイコロ振ってゴールにたどり着けるかどうかの遊びなんだし、やりようによっちゃあこれからも安泰だよな。
俺もすごろく屋やっておけばよかったよ。すごろくなんて軟弱な娯楽やっていられるかってマイラを飛び出したのがついこないだのようだ。だけど、評判を聞く限り弟のやつがうまくやっているんだろうな……。くそ、継いでおけばよかったぜ。
ああ、とりあえず、人間同士を戦わせようとしているやつらがいるこんな町は脱出して、一番近いドムドーラにでも行くかな……。
あの町なら安心だろう。そこで結婚して子供作って、代々一生安泰な生活でも送るか……。もう魔物はアレフガルドにはいないんだもんな……。
(文・深々シン)
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