あくましんかん「今日からモンスター軍の動向を管理しやすくするよう、GPSを導入する。これでちゃんと魔王様に貢献しているかサボっているか正当に評価できるからな。いつでもお前たちがどこにいるか確認しているからな」
スライム「へぇ~、なんだかよくわからないけど、かっこよさそうだね!」
さまようよろいAの場合
さまようよろいAは実直なさまようよろいだった。こうと決めたら梃子でも動かない彼は、よろいの固さも相まって魔王軍の魔物たちからは「鉄の鎧」と呼ばれていた。
さまようよろいAは勘もよく、今日この道を旅人が通るだろう、と彼が言えば当たることが多かった。さまようよろいAはそうして実績をあげていった。そんな彼を慕う魔物たちも多い。
さまようよろいAのスタイルは「待ち」だ。その勘の良さを利用して、ここだと思うルートの脇に控えている事が多い。そしてまんまと通りかかった旅人を打ちのめす。
じっと息をひそめて待つのは彼の性格に合っていた。長いときでは丸一日待ち続けることもあった。そして彼の成果は魔王軍にとっても多大なものだった。
GPSが導入されたあともそれは変わらず、ある日あくましんかんに呼び出された。
「お前はまったくさまよわず毎日じっとしているそうだな。さまよってこそのさまようよろいだろう!!さぼるでない!減給する!」
さまようよろいBの場合
さまようよろいBは几帳面なさまようよろいだった。規則に従って動くことを好み、PDCAはPの部分を重視する、そんな魔物だった。
魔王軍に入ったのも、軍といえば規則が厳しいところだろうという期待からだった。実態はもっと適当なものだったが。
さまようよろいBはルーティーンを好んだ。毎日決まった時間に朝食を食べ、決まった時間に家を出る。
また、さまようよろいBは打倒勇者に燃えていた。いつか必ず自分が勇者を倒すはずだと信じて疑わなかった。そのためには勇者に出会わなくてはいけない。
さまようよろいBは長年の研究の結果、旅人が出没しやすいルートを算出した。そのルートを歩くことを毎日のルーティーンに組み込んだ。通過ポイントをいくつか設け、旅人の行動時間から割り出した最適な通過時間を頭に叩き込み、正確に周回した。
さまようよろいBのその努力が実り、勇者にこそ出会えないが多くの旅人と出会い、その手で旅人を葬ってきた。仲間内でも、あいつほど魔王軍に貢献できているさまようよろいはいないということだった。
GPSが導入されたあともそれは変わらず、ある日あくましんかんに呼び出された。
「お前はまったくさまよわず毎日同じ行動を取っているようだな。さまよってこそのさまようよろいだろう!!さぼるでない!減給する!」
さまようよろいCの場合
さまようよろいCは怠惰なさまようよろいだった。フラフラとして定職につかず、家族を困らせるような奴だった。何か一つところで真面目に働いてくれれば家計の助けになるというのに、さまようよろいCには家族を支えたいという気持ちがなかった。
しかしそうも言ってられないため、旧友がさまようよろいCを魔王軍にスカウトした。
さまようよろいCは特に確固たる軸を持っていなかった為、二つ返事で魔王軍に入った。
魔王軍に入った後も、ひたすらふらふらとしていた。勇者と出会って戦うんだという意思などなく、ただ職につけたのだからそれで十分だった。やる気なんてないのだ。旅人と遭遇したとしても、さまようよろいはそそくさとその場を離れた。
これはサボりというものだ、とさまようよろいCもわかっていたので、ひたすら誰にも見つからないようふらふらと歩き回った。
GPSが導入されたあともそれは変わらず、ある日あくましんかんに呼び出された。
「うんうん。ちゃんとさまよっているようだな。給与をあげてやろう」
(文・やなぎアキ)
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