ドラクエ5に登場するキャラクター、オジロン。
主人公の叔父だからオジロン。こう書くとふざけた名前だなと思うが、プレイ中は特にそうは思わないから不思議だ。お父さんだからパパスなんだけど、もはやパパスはパパスだと思うのと一緒だ。
パパスがグランバニアを出ていってからは国王代理として必死に国を支えてきたオジロン。その後パパスは一向に帰ってこず、結局王になってしまったわけだが、人がいいだけで全く向いていない(本人談)。国民から嫌われているわけではないが、パパスの人望が厚すぎていまいちな評価。
そんなわけだから、大臣のいいなりになるしかないなんとも情けない王様だ。
パパスが出ていってからおおよそ20年(サンチョ談)、慣れない国王業をやるのはつらかったことだろう。
長年行方不明だった主人公が帰ってくると、好機!と言わんばかりに王位を譲ろうとしてくる。もはやこちらの意思は無視。ここぞとばかりに反対する大臣のことも無視してくる。
そんなに王様やるの嫌だったのか、と気の毒になってくる。
グランバニアの王位を継ぐには試練の洞窟にて王家の証を手に入れてこなければいけないのだが、それすらもすっ飛ばそうとする始末。
あそこはもう以前とは違って魔物が出るから……と一応もっともらしい理由をつけてくるが、これまで険しい旅をしてきて、城についたころにはたくましく成長し後ろに魔物まで引き連れている主人公にとって今更洞窟に魔物がいるからなんだというのだという感じだ。オジロンも恐らく自分で言いながら、でも彼らはあの険しい山を越えてきたんだから試練の洞窟くらいどうとでもなるか……と思っていそう。しかしそんな自分の気持ちを偽ってでもとにかく早く王位を譲りたかったのだろう。
帰ってきた主人公、最短にして1日で王位を譲るというスピード感。引継ぎもなにもない。とにかく王様辞める~~~~というオジロンの気迫である。
たとえ大臣が魔物と結託していなくても、彼は難色を示していたに違いない。本人は嫌だったかもしれないが、急に国王がいなくなった中20年近く国が平和を維持できたということは、多少なりともオジロンの功績もあるのだろう。
でも辞める~~~~わしもう辞める~~~~の一点張りである。
無事主人公に王位を譲り、これから余生楽しんじゃうぞ~わははははと飲み食い歌えの上機嫌だったというのに、翌日には王妃を誘拐されてしまうという悪夢再来。
まさか自分で探しに行くとは言わないよね?ね?と主人公に懇願するが、長く旅をしてきて後ろに魔物を引き連れている主人公がたかだか城の兵士に捜索を任せるわけがない。オジロンも多分それをわかっている。わかっているけど、念願の王位継承がかなったというのに、一晩でそれが儚くも散ってしまったその気持ちは筆舌に尽くしがたい。
たとえば、パパスが城を出て行ったときのオジロンの年齢が30歳前後だとして、そこからおよそ20年。すでに50歳である。パパスという絶対安心の兄のおかげで、働き盛りの30代40代を自分のやりたいことに注ぎ込めたはずなのにそれがかなわなかったわけだ。そして、50歳、ようやく甥に王位を譲って余生を楽しめると思ったのにこれである。
そしてご存知、それから8年の月日が流れた……。
オジロン、めっちゃかわいそう。
60歳ももう目の前である。王位をすでに正式に譲ったとはいえ、その王が行方不明なのだから王様代理として結局今まで通り国政を行わなければならない。さらに今まで頼りにしてきた大臣は実は魔物と通じていて、すでにこの世を去っている。さらにさらに、数年後にはサンチョまでもがどこかに行ってしまった、王子と王女を連れて。
オジロンにとって、最も辛い8年間だったに違いない。
主人公が身動きとれぬまま四季の移り変わりを眺めるしかなかった地獄の8年間。しかしオジロンにとってもまた地獄の8年間!グランバニア王家の血筋に生まれた者、呪われてる?
しかしここで朗報が!
なんと王が戻ってきたのだ!
オジロン大歓喜!
もうどこにも行かないって約束して!という思いが怒涛に押し寄せる!
まさか王妃探しに行くなんて言わないよね?王様なんだからだめよそんなこと、と。
でも行く。
主人公、すぐ行く。
主人公はふらっと国を出て、妻を探しに行く。たまーに帰ってくることはあるので以前よりはましだが、結局オジロンが国の舵取りをしなければいけない。
そして2年。
もうここまで来たら2年なんて誤差。
ようやく王妃も帰ってきたが、もう今更王を止めることなんてできないのである。いっそここまできたら、魔王を倒してもらうことがオジロンが穏やかな余生を送るための唯一にして最善の近道である。もう早く倒してきて!という心境だろう。
そんなこんなで主人公たちが魔王を倒しグランバニアに戻ってきたとき、もちろん一番喜んだのはオジロンだろう。
平和が嬉しいのはもちろんのこと、ようやっと王が腰を据えてくれるという嬉しさ。もうグランバニアからいなくなったりしないで!と涙を流したに違いない。
過酷な運命に翻弄され、ドラクエ界一の苦労人であった主人公。
彼の叔父もまた、主人公の生きてきた長さだけ苦労をしてきたのだと思うと、感慨深い。
平和を取り戻してからは、彼の頭を悩ませるのは娘ドリスの行く末だけだろう。
(文・やなぎアキ)
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