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【ドラクエ3】大人になった今、バラモスが倒された時のゾーマの心情を考えるとつらい。

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ドラクエシリーズ屈指の名物ボス、大魔王ゾーマ。
そのインパクトは語るまでもなく、初登場から時代が流れても様々なスピンオフで大活躍している。バラモスを倒して全クリを果たしたと思っていたプレイヤーをどん底に突き落とす登場シーンは、現在も語り草となっているほどだ。
ゾーマが登場したシーンでは「まだ世界を救えてないの!?」と、絶望した人も少なくないだろう。

 

しかし、ゾーマの立場になって考えてみたら、あの絶望のシーンの前後はゾーマ側にとっても結構堪えるものだったんじゃないかと思う。
バラモスを倒した勇者たちがアリアハンに凱旋した際、突然ゾーマが宣戦布告をしてくるワケだが、プレイヤーからしてみれば「この世界を救ったのに他にももうひとつ世界があるのか……」となるこのシーンも、ゾーマの立場になって考えてみると穏やかではない。
 
ここで、実際の企業に置き換えて考えてみてほしい。
とある業界で市場A、市場Bというふたつの巨大市場があり、市場Aを完全に独占した企業が、市場Bに進出。幹部(バラモス)を市場Bの責任者としたものの、そこでライバル企業とその代表者(勇者)の頑張りによって、ひどく敗れる。
……これでは、完全に「失敗談」だ。
ただ、失敗を失敗としてシンプルに終われないのが、組織というもの。
そこで本社の会長(ゾーマ)が次に打った一手で、その会社へのダメージが伺える。
考えられる手は2つ。
  1. 市場Aの独占にしがみつき、既存の利益を守る
  2. 市場Bに別の幹部(もしくは自分自身)を送り込む
この選択肢から①を選んだ場合、その企業は冷静とも言えるし、弱気・人材不足とも見える。ある意味、敗北を認めたような形になるだろう。
負けられない戦い・負けたくない戦いで、なおかつ体力が残っているなら絶対に②だ。
でもゾーマは、①を選んだ。
上の世界に乗り込んだり、他の幹部を送ったりせず、完全支配している有利な自陣に引き込む作戦に出た。
これは結構、大魔王にしては弱気な姿勢のような気がする。冷静でもあるが。
そもそもバラモスはかなり重要な幹部だったはずで、痛手を被ったからこそ、次々に同レベルの幹部を送り込むことが出来なかったと考えられる。ライダーものや戦隊もの、魔法少女ものにありがちな「侵略先に強いヤツがいるのに次々幹部を送り込み続けて戦力を減らし続け、むしろ成長の手助けをしてしまっている」パターンに陥らないようにしたのだろう。
たしかにいきなりアリアハンにバラモスブロスが単身乗り込んできていても、囲んで殴って終わりだった可能性がある。
ゾーマ戦の前に三連戦があった方が、断然苦しい。正しい判断だったと思う。
でもそれだけに、ゾーマ側の台所事情を考えると、バラモスの死は相当つらかったはずだとも思うのだ。
 

名乗り出るタイミングも見計らっていた感じがする

そもそも、ゾーマが名乗り出るタイミングは、絶望を与えるという意味でも効果的だが、色々と考えたタイミングだったように感じられる。
バラモスが倒された瞬間に名乗り出ても良かったはずなのに、わざわざアリアハンに帰るまで待っていた。
それなりに長時間にわたって継続的に監視して、狙いすまして「ここだッ!!!」と名乗り出たと考えていい(もちろん部下を使って交代制で監視していた可能性が高いが………)。
なぜ、バラモスが撃破された直後に名乗り出なかったのか。
ひとつは、バラモスの遺体を回収したかったからではないかと思う。
上述した通り、バラモスは数少ない幹部の一人。
本当にどうでもよい部下であれば回収してゾンビにして自分の玉座の守りにつかせるわけがない。
だからバラモスが倒されたときに「このやろう!」と思いつつも、その後のことを考えて一旦我慢した──なんて考えることも、できなくはない。
宣戦布告の時の強気なセリフも、あえて誘い込むための手段のような気がする。
王の前で「まだ敵がいるよ、そっちが本命だよ」と言えば、乗り気でなくとも征伐に行かなきゃいけないような空気が、少なからず出るだろう。
強くなるための訓練期間も、疲れを癒す休息期間も与えず「いいから、はやく来い!」と言わんばかりに権力者の前で絶望をアピールしている。
 
もしかすると一瞬「勇者の老衰を狙った方が良くない?」と考えたかもしれない。でも、やっぱり攻めを貫いたほうが良いと考えたのだろう。
割といつも勇者の寿命について考えていたと仮定すると、ゾーマが最期に口にした名台詞もちょっと印象が変わる。
「勇者よ……。よくぞわしをたおした。だが、ひかりあるかぎりやみもまたある……。わしにはみえるのだ。ふたたびなにものかがやみからあらわれよう……。だがそのときはおまえはとしおいていきてはいまい。わははは………っ。ぐふっ!」
この恐ろしいセリフが、勇者が年老いる場合を考慮していたために思わず口から飛び出した……みたいに聞こえちゃったりする。
 
ゾーマが攻めを貫いたのは、なぜだろう。
こっそり下の世界に隠れ続けることもあわせて考慮したかもしれないが、それをしなかったのはオルテガの存在があるのではないかと思う。
少なくとも二つの世界ですみわけをすることは選択肢に入るはずなのだが、あえて自らの存在を大々的にアピールするのは「向こうから勝手にやってくるかもしれない」と、オルテガが単身乗り込んでいたことで気が付いていたから、という可能性がある。いつやってくるかわからない勇者たち、しかも成長しているかもしれない……みたいなことのリスクを考えたら、自らの土俵で戦う短期決戦に持ち込むのは悪くない手となる。
むしろ打たれてみるとこれしかないという絶妙な一手だ。自陣でやるのであれば、勢力圏的にも五分五分。──いや、わずかに勇者が悪い。
そんな神の一手を極めたゾーマが取れたのは、やはり勇者がすごかったからなのだが、こうやって考えていくと「バラモスをスルーしてゾーマのところへ向かうなよ!」と心の中でツッコミを入れられることも少なくないであろう、オルテガの勇気ある行動が、巡り巡って世界を救ったのに繋がっていたという可能性にたどり着く。
やはりドラクエ3はよくできているゲームだ。
 
(文・深々シン)
 
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