ドラクエシリーズにて初めての仲間祖父、ロウ。
かつては賢王と呼ばれるほどの名君だったユグノアの元王ロウだが、親しみやすいキャラクターでもある。
最年長ゆえに落ち着いた雰囲気で主人公を諭すこともあれば、オープンスケベェとして場を和ませることもある、愛すべきおじいちゃんだ。
そんな安定感抜群のロウだが、彼のストーリーはあまりにも波乱万丈すぎる。
娘、娘婿死亡、孫行方不明
ロウはドラクエ11のストーリーが始まるまでは、それはもう幸せな人生を送っていると思っていたことだろう。平和な国を治め、愛する妻に出会い、かけがえのない娘は幸せな結婚をし、有望な若者に王位を渡して気ままな隠居生活、そして可愛らしい孫にも恵まれて……
それがゲーム開始から1分でなくなる。
ひどい。
心折れる。なんとか幼きマルティナのことを助けられたのは救いかもしれない。たった一人で生き延びたとあらば、ロウは自責の念にさいなまれていただろう。命を絶つまではいかなくとも、生きる気力はなくしそうだ。
でもくじけずに、ユグノアを滅ぼした真犯人を探すために諸国を旅するのだから、ロウはやっぱりすごい。
でも人知れず泣く晩がいくつもあったんだろうな……。
孫と再会するも、世界崩壊し再び離れ離れ
そんなこんなで16年(16年!?!?!?!!)、ついにロウは生き別れた孫と再会する。唯一の肉親に出会えた主人公の気持ちはもちろんのこと、ロウの気持ちを考えると切ない。亡き娘の忘れ形見、それが元気に育っていてくれていたことはそれはもう奇跡に等しいくらいには思えただろう。
これからは孫と共に、祖国を滅ぼし、世界の平和を脅かそうとする存在を倒すんだ!と前向きになったはずだ。
そこからの世界崩壊。
&孫と離れ離れ。
ロウが何をしたというのか。ロウが何をしたというのだ。
国が滅び家族を失い、それでも16年間頑張ってきた、その仕打ちがこれか。
目の前で世界が崩壊していく様を見せつけられた主人公もまた悔しかっただろうが、ロウの悔しさもまた計り知れない。目の前にいた家族をまたしても失うのつらすぎる。
しかしそこでへこたれないのがロウ。だてに一国失ってない。
打倒ウルノーガをかかげ、命を賭して修行するその姿。ロウの中に渦巻く戦う心、それは決して朽ちることはない!
歩みを止めないロウの代わりに私が泣こう。
孫、過去に戻る
戦う心を持つ限り、仲間たちは集結する。ロウは孫と二度目の再会を果たす。
今度こそ離れず、そしてウルノーガを倒し世界を平和にするのだ!
ロウの悲願は達成される。ユグノアは滅び家族を失い、そして世界すらも崩壊し、それでも残ったものがある。
かつてのユグノアを復活させ、今度こそ余生を穏やかに過ごせる、そのときがようやく来たのだ。失ったものは多いが、大切な孫がいる。今手に入れられる最大限の幸せがそこにある。
孫、たった一人で過去に飛びたつ。
あまりにも辛い。
世界中のなにもかもを救いたいという、勇者としての使命。それを後押ししたい気持ちと、たった一人の家族を失ってしまう苦しさ。何度失えばいいのか。何度この老体に悲しみを経験させればいいのか。
二つの世界線はいずれ一つに収束していくかもしれないという話はあるが、だとしても孫を失ったあのときのロウの気持ちはそんなこと関係ない。孫の気持ちを尊重し、気持ちよく送り出したかったはずなのに、思わず駆け寄ってしまったロウのあの行動こそが本心なのだ。
ドラクエ11全体を通して、ロウの歩んできた道があまりにも過酷でつらすぎる。
おおよそ70歳のロウ、怒涛の余生である。
ドラクエの仲間老人キャラと言えばドラクエ4のブライだが、彼よりもさらに上を行く余生。7のメルビンでもない限り、年老いてからそんな人生が始まるとは思わないだろう。
40歳のロウも50歳のロウも、もちろん60歳のロウも、ただ幸せなユグノア王国で、楽しく暮らして穏やかに死んでいくのだろうと思っていたはずだ。
それがこれである。
もう人生とっくに折り返しているところでの、これである。
ということは、16歳の朝に勇者として目覚められなかった私にも、まだ世界を救う運命の渦に巻き込まれる可能性があるわけだ。
このような余生を送るのはつらいが、その点だけに関していえば、まだまだ希望が持てるのは嬉しい。ロウには申し訳ないが。
そして、これだけのことがあったのに、仲間に弱い姿を見せないロウは、尊敬すべきおじいちゃん像だと思う。
(文・やなぎアキ)
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