ドラクエ11のマスコットキャラクターともいえるヨッチ族。
我々プレイヤーは勇者そのものなので意外と忘れがちだが、実は彼らは普通の人には見えない。
つまり、ヨッチ族のクルッチと勇者一行の出会いは勇者以外から見ると非常に奇怪だったと考えられる。
勇者以外の仲間たちからは一体勇者とクルッチの会話はどのように見えたのか。考えてみよう。
冒頭、どこからともなく「たいへんだッチ!たいへんだッチ!」という声が聞こえる。そのため勇者は声にする方に近づいていくが、当然仲間たちにその声は聞こえない。
なんでこいつ急にふらふら寄り道しはじめるんだ?と思っているはず。
クルッチ登場。勇者、岩肌の下の方をじっと見つめる。
この時点で仲間たち、訝しげに勇者を見つめる。
特にカミュ。常に旅の目的地に勇者を導き、寄り道しようものなら小言を吐く高性能ナビゲーションとして名高い彼は、多分もうちょっとイライラしている。
ベロニカは勇者の見つめる先に何かあるのかと思い身を前に乗り出していそう。セーニャは鈍いからちょっと空でも眺めていてくれ。
はい、ここで勇者、クルッチの「ピンチッチ」という謎の語感の良さにちょっと吹きだす。
仲間たち、たまらず勇者の方を見る。ここらで、ああ勇者はちょっとマイペースがすぎるからいきなり思い出し笑いでもしだしたんだな、と無理やり納得しようとする仲間たち。勇者は不思議ちゃんに違いない。そうでも思わないとやっていられない。怖すぎるから。
クルッチ、勇者の存在に気付く。ここで見えるよと答えてもいいのだが、なんとなく天邪鬼な年ごろ。
「いいえ」勇者はそう言いながら首を横に振ったぁ!
!?!?!?!
仲間たち、たまらず勇者が恐ろしくなる。ふらふらと寄り道をし、岩肌を見つめていたかと思えば、急に何かしらを否定した!何を聞かれたんだ!何を否定したんだ!
仲間たちにはそれを知る方法もない。
カミュは「おいおいこいつマジかよ……」という目で勇者を見、ベロニカは「なにと会話しているのよ……」と恐ろし気に勇者を見、セーニャはひたすら目を丸くする。
嘘を指摘される勇者。ごめんごめんと言いたげに笑顔をこぼす。
!?!?!?!
怖い!さっきの吹き出しの怖さどころではない!明らかに何かしら相手に向けて笑っている!しかしあるのは岩肌のみ!
察するに、大分勇者よりもサイズが小さい謎の生き物がいる!が、見えない!なにが起きた!
勇者、「うん、僕が勇者だよ」と言わんばかりに力強く頷く。
「ああ、これは年ごろの男子にありがちなあれだ。見えない何かと会話できるすっげー自分という演出だ……。こいつまだ、16歳だもんな」
カミュ、何かを察する。
ベロニカとセーニャはお互いに顔を見合わせ、肩をすくめる。
勇者、お願いがあると言われて「なんだろう?」と首をかしげる。
いや、首をかしげたいのはこっちだよ!!!と喉まで出かかった叫びを必死で抑える面々、というかカミュとベロニカ。
岩肌を見つめて首をかしげてしまう事象ってなんだ。
クルッチからヨッチ族のピンチッチを救ってほしいと頼まれる勇者。答えは当然YESだ。いいよ、と勇者は首を縦にふる。
?????
岩肌相手に否定したり肯定したり、どうしちまったんだこいつは。故郷を焼き払われてしまった精神的ストレスが、ここにきて爆発してしまったのかもしれない。己の世界に閉じこもってしまったのではないか?
セーニャが、勇者の心のケアに尽力しようと決意する。
喜ぶクルッチに優しく微笑みかける勇者。
カミュが後ろ髪をかきながら、とうとう動き出す!彼は勇者の旅をサポートするナビゲーションだから!自分しかこの状況を打開できないと踏んだのだろう。
「さっきからお前、誰と話してるんだ?」
あああ~~~~。誰もが恐れて聞かなかったやつ~~~。カミュってスキル「ゆうき」にポイントMAXまでふってるの?
セーニャが慌てる。それは言ってはいけません、勇者さまは今ご自分の世界と対峙しているのですから、そこから引きはがすような真似はしてはいけません!と内心おろおろしてしまう。
「暑さでボーっとして、幻でも見てるんじゃないでしょうね?」
お姉さま追い打ち~~~~。
カミュが指摘してくれたのをいいことに、すかさず加勢に入るベロニカ。抜け目ねぇ~~~。
この時点で内心カミュとベロニカの心臓はバクバク。言っても良かったんだろうか、想像を絶する答えが返ってきたらどうしよう。でも勇者には世界を平和にする使命があるんだから、こんなところで立ち止まってはいられない!!
仲間の言うことは一旦無視が勇者スタイル。クルッチが村に案内してくれるというので、快く頷く。
仲間たち全員、勇者のスルースキルに開いた口がふさがらない。いや、こっちのこと無視してまだ岩肌と仲良くするのか。どうしたら、いいんんだ、これから先。
そしてクルッチが彼らをヨッチ村にいざなう……。
勇者への誤解がこれで解けるようでなにより。
3人ともヨッチ村の風景に驚きつつ、勇者に心の中で全力の謝罪をしたことだろう。
(文・やなぎアキ)
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