スラムというか貧しい人々が住む街、いや、橋であるカラコタ橋。
そこには必死に暖を取ろうとする老人の姿があった。
老人は毎日、たき火で暖を取ろうとする。しかしどうしても火の勢いが心もとない。寒くて寒くてしょうがないのだろう。
老人に冷えはよくない。なんとか助けてあげられないだろうか。
私はその老人と接触を試みてみた。
なんと。あまりの寒さに彼は、自分のパンツを燃やそうとしていた。
それはよくない、パンツがなければ腹の冷えにつながるのではないか。それでは本末転倒だ。
しかし、そうせざるを得ない程に生活が困窮しているのだろう。これがこのカラコタ橋の現状だ。
彼は燃やせるものがないか、こちらに尋ねてきた。出しんさいよ、という独特な言葉使いに、なにかグッとくるものがある。
燃やせるものを渡せば、お礼をくれるらしい。パンツすら燃やそうとしていた老人のお礼には期待はできないだろう。
とりあえず、何も持っていないと答えておく。
亀の甲より年の功とは言うが、これなら亀の甲の方がましではないか、というののしられ方をしてしまった。
ケーチケチー!となんともリズミカルなののしりに、むしろ気持ちよさを覚える。
しかし、このまま老人を凍えさせるのはいかがなものだろうか。
彼は手がかじかんでいるようだ。老人特有のしわだらけの手が目に入る。
先ほどはつい断ってしまったが、さすがに見過ごすわけにはいかないだろう。燃えそうなものを手荷物から探してみると、やくそうが見つかった。
葉であれば、良く燃えるだろう。
彼は勢いよくたき火にやくそうを投げ込んだ。
やくそうのおかげでたき火の勢いが増したようだった。やくそう一枚でそんなに変わるものなのか……と疑問がよぎる。そもそも私も、たき火で燃やしてもらうためのやくそうを一枚しか渡さないのはいかがなものなのか。
老人は優しい。私にもたき火で暖まるように促してくれた。正直そんなに寒くないのだが。
彼はしっかりと暖かさを噛みしめていた。やくそう一枚でこれだけ暖を取れるならよかった。
おう おう おう……とは味わい深い。
そして彼はお礼を差し出したのだった。
うわーい。1ゴールドだぁ!
仕方あるまい。パンツすら燃やそうとしていた老人だ。なけなしの1ゴールドなのだろう。やくそう一枚で、老人の命を救えてさらに1ゴールドももらえるのであれば、親切のしがいがあるというものだ。よかったよかった。
では、私はそろそろお暇するとしよう。老人にお別れをするべくもう一度話しかけた。
む、これはまずい。一度施しをしたせいか、すぐさま燃やせるものを求めてきた。やはりやくそう一枚では足りなかったのではないか。
申し訳ないが、先を急いでいるので振り切ることにした。
これがカラコタ橋の現状である。
このクエストは何度でも受けられ、何度でも1ゴールドをもらえる。
もしこのクエストを1万回こなせば、老人は総額1万ゴールドをくれることになる。
これがカラコタ橋だ。
(文・やなぎアキ)
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