ドラクエには作品の数だけ勇者が存在します。
2016年の30周年の時には総勢10名の勇者たちがずらっと並んでいる姿をそこかしこで見ることができました。
中には勇者ではないのではという方たちもいますが、仲間を導き巨悪を打ち砕くのが勇者であればやはり皆が勇者なのでしょう。
ただ、そういったこじつけすらも許されない人物が一人います。
そう、ドラクエ5の悲劇の主人公です。
勇者ではないと明白であるにも関わらず勇者軍団の中に入れられる彼の気持ち。
彼の生涯とはどのようなものだったのか。
今回はそんな勇者になれなかった彼にフォーカスを当てていきましょう。
幼き彼は確信する
幼少期の彼は非常に好奇心旺盛で、危険な洞窟や町の外、廃墟になったお城にまで冒険に出かけます。
時には恐ろしい魔物を前に気絶してしまうこともありましたが、自分のお金で買ったブーメランを片手に、二つ年上の幼馴染にホイミをかけてあげる彼の姿は誰もが頼もしいと感じたでしょう。
妖精の長(美女)から小さき戦士と称えられた彼は、幼いながらも自分には特別な何かがある、そう感じました。
ゲレゲレもそんな主人を持てて幸せなはずです。
妖精の長(美女)がいつか自分が困ったときに手を貸してくれると約束してくれたことで、彼は一層自分の特別な力を信じることになりました。
これはフラグだ、と。
勇者フラグ、立ちました。
父親を失い、奴隷に身を落としたその時、彼は自分の不思議な運命を信じて疑わなかったでしょう。
彼は辛い現実を目の当たりにする
長く厳しい奴隷生活から辛くも逃げ出し、彼はようやく勇者としての旅をスタートさせます。
そして焼き払われた故郷を前にして、怒りと絶望に打ちひしがれながらも彼は思ったはずです。
これ、勇者あるあるでは?
勇者、故郷焼き払われがち
しかし数々のフラグを打ち砕く出来事が彼を襲います。
父親の残した天空の剣。勇者がかつて装備していたといわれる天空の剣。
彼は勇者ではなかったのです。
かつて父が嘆いたように、彼も嘆きました。
自分ほどの適任者はいないだろうと思っていたのに。
結婚を強行されながらも旅を続ける彼は、ある日自分が王族であったことを知ります。
しかしそれがなんだというのでしょうか。
彼がなりたかったものは王族ではありません。勇者です。
王位を継ごうが双子が生まれようが彼の心は満たされません。
そして彼は名前負けしている使用人がいる富豪の家で8年間、ただじっと耐え続けたのです。
彼に追い打ちをかける無常な運命
8年の歳月を経て、すっかり大きくなった息子娘に再会した彼は受け入れがたい現実を目の当たりにします。
息子「ぼく、お父さんが残していった天空の剣装備できたんだよ!」
それは8年間ひそかに恐れていたこと。
妻をさらったあの紫のたてがみの白馬(8年も前なので名前を忘れた)が妻に対して言ったあの言葉。
「天空の勇者の血が残っていたヒヒンヒン(8年も前なので何て言っていたのか忘れた)」
だからといって、自分がこんなにも焦がれた勇者が自分の息子であるだなんてことが許されていいのでしょうか。
愛しいはずの息子が彼の目にはどう映ったのでしょうか。
彼に与えられたのは勇者の剣ではなく杖でした。
そういえば初めて自分で買った武器はかしの杖でした。
彼は幼少期に憧れた勇者にはなれず、ただ同じところで地団駄を踏んでいただけだったのかもしれません。
ドラムの音が空しく鳴り響く中、寝起きの地獄の帝王を破壊の鉄球で殴り続けることしか、彼にはできないのでした。
彼の中にあるくじけぬ心とは
世界に平和が戻った今、彼は時折歴代勇者たちの集いの連絡を受けます。
しかし息子はまだまだ子供です。
魔王の脅威にさらされることがない今、息子を勇者としてではなく普通の少年として育てたい。
そう思うのは親のエゴでしょうか?
彼は言います。
「息子の代わりに私が出席しよう」
なんとなく満足げな彼の表情が見えた気がしました。
お詫び:筆者はゲレゲレ派ではなくチロル派でした。過剰な演出を深く謝罪いたします。
(文:やなぎアキ)
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