クリフトは一人、悩んでいた……。
このことはアリーナ姫はおろか、ブライ様にすら言うことはできない。
もう一度クリフトは、そっとズボンの中を確認して、顔をしかめた。
クリフトも神官といえど17歳の男児。
──ああ、神よ。
そう神に問いかけるも、彼の頭の中はただただ姫のことでいっぱいだった。
昨晩はアリーナ姫への愛を内太ももに刻印することは、正しい行いだと、そう確信していたはずなのだ。
クリフトの首筋にじんわりと汗が浮き出る。
隣の部屋から「明日の海水浴、楽しみね!」という姫の声が聞こえてきた。
途端にそれは冷や汗に変わる。
そう、明日は3人で海へバカンスに行く予定なのだ。
──今ならまだ間に合うか……?
そう逡巡していると、ふと、暖炉の中でカンカンに熱された金属棒が目に入った。
さすがにそれは違うだろう、と首を横に振る。
こんな時に思い返されるのは、幼いころに師事していた神父の「神官たるもの、常に神への忠誠を示した服装をしているべきである」という台詞であった。
彼は明日のために用意していたハーフ丈の水着に目をやり、天を仰いだ。
「これでも神への忠誠は十分に示せていたハズなのに……」
そもそも、こんな季節に、あんなことをしてしまった自分が悪いのであろう。
妙に煌びやかな格好をした老人に声をかけられるまでは、自分の身体に文字を刻み込もうなど──ましてや意中の人の顔を刻み込もうなど──思ったことすらなかった。
それが苦痛になることも、これから足枷になることも、わかっていたはずだったのだ。
色とりどりに刻み込まれた『亜利威那羅武』の六文字。
明日だけならばやりすごせるだろうか?と、もう一度思い直し、壁にかかった水着に手をかける。
鏡に映っていたのは、陽気な太ももを持つ、一人の愚かな男だった。
──思ったよりも丈が短いな……。
次の瞬間、クリフトは神官としてのフル装備で海水浴を楽しむことを決意したのだった。
同時刻、ブライは焦っていた。
40年前に若気の至りで胸に刻印した『僕は未来の国王!』という文字……これはマズい、非常にマズいのではないだろうか。
ただでさえ、国王への最近の自分の心証はよくない。
寛容で新しいもの好きなアリーナ姫であれば笑い飛ばしてくれるかもしれないが、クリフトは、あの堅物だけは、絶対に許してくれないだろう。
海水浴をあれほどまでに楽しみにしている姫様には申し訳ないが、仕方あるまい。
自分に残された選択肢は2つだろう──海水浴をなくするか、クリフトを亡くするか、だ。
次の瞬間、ブライは自分が回復魔法をも覚える決意を固めた。
同時刻、アリーナ姫は名案を思い付いていた。
──クリフトもブライも、あまり海水浴には気乗りじゃなかったみたいだしね。
次の瞬間、アリーナ姫は温泉宿を予約した。
※こちらの短編は、DQフリメンバー同士が酩酊状態で1行ずつ交替しながら書いた下書きなし小説です。お楽しみいただけたら幸いです。
(文・リモート侍&鎖骨戦士ヤマネ)
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