やぁみんな、元気かな!?
ゲームに没入するタイプの人は、ドラクエをしていて「旅の仲間の装備って誰が決めてるのかなぁ?」って疑問にぶつかる事、あるんじゃないかな?
もちろんプレイヤーが決めているんだけど、そんな風にゲームのことを捉えず、キャラクターたちの立場で考えてみたいと思うんだ!
今回は「ハードボイルド風」に、ドラクエキャラが装備を変更する時の会話を想像してみたよ☆
早速見ていこー!!!
1.勇者が決めてるパターン
「おい、脱げ」
勇者がブライに、一言で命じた。いつもの事だ。ブライは気まずそうに──しかしそれをなるべく悟られないよう遠慮しながら──勇者を見上げた。
「わ、わかりましたぞい。それならワシは、何を着ればよろしいのですかな……?」
長らく、共に旅を続けてきた。同じ目的を持つ仲間だと、最初はそう思っていた。
しかしそんな実感・連帯感は、今となっては消えかけていた。
捕まったときは人質として牢屋にぶち込まれ、他の仲間とは違い新しい服を買ってもらえた事もなかった。
「え?服?どうだろうな、あとでなんか買ってやるよ。今はちょっと金がいるんだ。今はお前の着ている服を売って、金を増やしたい。少しばかり協力してくれ」
アリーナ姫が心配そうに見つめてくるのを、ブライはあえて気がつかないように振る舞った。クリフトがアリーナ姫を見つめているのにも、精一杯、気がつかないフリをしている。
ブライは言われるがまま、自らの服を脱ぎ捨てた。この服に未練などない。世界のために、未来のために……今自分に出来ることは、これしかなかっただけなのだ。
ブライは、他のナンバリングタイトルに想いを馳せた。
仲間になれば絶対にスタメンのドラクエ2、戦闘中に仲間を入れ替えられるからバランスよく育てる必要があるドラクエ11……。
「キマリは通さない」という台詞さえ、すこし羨ましく感じている自分に気がつき、ふと恥じ入る。
──嗚呼。ワシは、この年になっても自らの手で武功を挙げて英雄になりたかったのか。
下着だけになったブライは、この身体のどこに薬草を忍ばせれば良いか思案しながら、勇者たちの背中を追っていった。
旅はまだ続く。
決して諦めることはない。
そう……彼もまた、導かれし者の1人なのだ。
2.みんなで話し合うパターン
装備品も、随分とたまったもんだ。
勇者とヤンガス・ククールは、旅の中で集めてきた品々を整理していた。
荷物を運んでくれるミーティアがいるからって、これじゃあまりにも貯め込み過ぎだ。
「アタシに相応しい装備品はどれかしら?」
ゼシカもひょっこりと顔を覗かせる。
「わわ!アッシが着替えてたらどうするつもりだったでげすか!」
「もー、そんなの見られても減るもんじゃないんだし」
全く悪びれないゼシカの態度に、勇者は苦笑する。
──思えば長い間、一緒に過ごしてきたものだ。
「なんだこれ!凄いのもってるなぁ」
ククールが笑いながら、何かを拾い上げた。
その手には、バニースーツが握られていた。
バトルロード攻略が遅かったせいで、手に入れた時にはすでに、より高性能な装備を持っていた……そんな不遇の装備だ。
結局使わずじまいか……と勇者が遠い目をしていると、ヤンガスがいたずらっぽく笑う。
「懐かしいでがすね。せっかくだし着てみるのもいいんじゃないでげすか?」
「あら、いいわよ!貸しなさいよ!ついでにあみタイツも着てあげるわよ」
あっさりと快諾したゼシカは、そのままバニースーツを受け取りさっさと出ていった。
馬車の裏でゼシカが着替える、その些細な音がどうしても耳に届く。
男3人で、なんとも言えない時間が過ぎていく。楽しみにすべきか、下心がないように振る舞うべきか……世界を救うべく旅する仲間ではあれど、こういう瞬間に見合った表情は、持ち合わせていなかった。
沈黙が、重い。
その沈黙を破ったのは結局のところ、哀れな男どもではなく、ゼシカだった。
「着替えたわよー!」
そう言って現れたゼシカに、1番最初に声をかけたのはヤンガスだ。
「に……似合うでげすね!」
「おう、最高だぜ!」と、ククールも続く。
しかしみんな、どこか寂しそうにしていた。
何故だろう、この空虚さは……。
一体、この気持ちをどうやって……。
「おヌシら、なにをしとるんじゃ?」
トロデ王が、不思議そうに近づいてきた。
「あぁ……ゼシカがバニースーツを着てくれたでげすよ……」
ヤンガスが説明する。
その声には、やはりどこか覇気がなかった。
トロデ王は目を見開き、声を大きくあげる。
「なんと!そそそそ、それじゃあワシはこれをやろう!先程錬金してきたうさみみバンドをやろう!!さぁ、これを身につけるのじゃ!!!」
間髪入れずに、トロデ王にビンタがとんだ。
なんて破廉恥な──ゼシカの目には、怒りがこめられていた。
「バカ!これもつけたらグラフィックが変わっちゃうじゃない!!」
嗚呼、世知辛いぜ──勇者は、フッと少しだけ、笑った。
3.神(プレイヤー)が問答無用で着替えさせるパターン
メルビンは「そうか……」と呟いた。
ガボと勇者は、その呟きが耳に届かなかったかのように、武器を磨く手をとめずにいた。
そのまま少しだけ難しい顔をしてから、メルビンは、また小さく呟いた。
「そうか……わかったでござる……。これは神の御業でござるな……」
しばらく間があき、マリベルが苛だたしそうに口を開く。
「なによ?なんかあったの?」
「いやはや、これはマリベル殿。お恥ずかしいところを見られてしまいましたな。ハハ、伝説の英雄たるものが、独り言など……」
これがあるから嫌なのだ──そんなことを表情に隠さずに、マリベルはもう一度尋ねた。
「何に気がついたのよ?」
「拙者、ホットストーンに封印されるまで、服は自分で好きなものを選んでたんでござるよ。ところがこの旅に出てからというもの、宝箱や武器屋でアイテムを手に入れるたびに、勝手に身につけている装備が入れ替わっているでござろう?これは、きっと神の御業に違いないでござるよ。それに……」
老体が目を輝かせながら早口で説明するのを、マリベルは手を挙げて遮った。
「ちょっとまって、私たちが瞬間的に装備が入れ替わってるのが、神様の所為だって言うの?」
「そうに違いないでござる。拙者は特に何も考えていないのに、常にその時の最善の装備が選ばれている……こんな事は奇跡でしかあり得ないでござる!」
「じゃあ、私が朝起きたら《ゆめのキャミソール》とか《しんぴのビスチェ》とかを着てる事があるのも……あれも、神のせいだっていうの!?」
「そうに違いないでござる!眼福でござる!」
マリベルは、あからさまに舌打ちをする。たしかにおかしいな、と思う事は幾度となくあった。
しかし……それを見て見ぬ振りをしてきたのは、彼女自身なのである。
メルビンの思わぬ意見に思わず耳を傾けてしまった自分に、マリベルは無性に腹が立った。
腹いせに、ガボの脛を蹴り上げる。
「ガボ!アンタも聞いてたでしょ!どう思う?やっぱり神のせいなんだと思う?」
「うーん、オイラは神じゃないと思うぞ!だって、神は負けたんだからな。メルビンをホットストーンに封印するので精一杯だったと思うぞ!」
「じゃあ、装備が私の意思にかかわらず変わっちゃうのはどうやって説明するのよ!」
「それについては……オイラ、思ってた事があるんだよな。オイラたちが、作り物なんじゃないかって。オルゴデミーラも、神様も、モンスターも……オイラたちとは次元の違う世界の人間が、あえて楽しむために作り出したものなんじゃないかな……って。だからオイラたちは、そういう次元の人たちの言いなりになって、あくせく動いているだけなんじゃないかな!って」
「何よそれ、全然論外よ!私たちはね、自分たちのために旅をしてるのよ?それなのに、他の人間に操られているなんておかしいじゃない!」
声を荒げるマリベルの頭を、勇者がポンと叩く。
少し落ち着いた彼女を、今一度席に座らせながら、勇者は落ち着いて話した。
「そうさ、世界には不思議なことばかりだ。もしかしたらそんな事があっても不思議じゃない」
マリベルは不満そうに、勇者の話に耳を傾ける。
複雑な話だったのか、メルビンは眠そうに目をこすっていた。
「……そして、もしかしたら、僕たちを操る人たちも他の誰かに操られているのかもしれないな。僕たちは、装備品が勝手に最善の装備に変えられているのには慣れていて、違和感なく受け入れてしまっていた……。当然のことだってね」
ガボが頷くのを一瞥して、勇者はニコリと笑う。そしてこちらを見ながら、話を続けた。
「もしかしたら、僕らを操作しているつもりの人たちも、そうした変化に気がついていないだけかもしれないんだ。人生だと思っているものが、誰かのゲームなだけってヤツさ。そう……これを読んでいる、アナタとかね」
深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのである。
(文・OGTキシン)
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